りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008-01-01から1年間の記事一覧

詩羽のいる街(山本弘)

著者は「SFでもファンタジーでもない」と言ってますし、全然不思議な場面もないのですが、それでもやっぱり、これは現実世界を舞台にした物語とは思えません。 賀来野市(架空の市?)に現れた、1人の女性を中心とした物語。彼女の名前は詩羽。この6年も…

ペネロピアド(マーガレット・アトウッド)

紀元前8世紀のギリシャ、詩人ホメロスが描いた壮大な冒険物語「オデュッセイア」では、英雄オデュッセウスの妻であるペネロペイアは、徹底的に貞淑な妻として描かれています。 10年続いたトロイ戦争後、さらに10年以上も放浪の旅をさすらっていたオデュ…

ガラテイア2.2(リチャード・パワーズ)

タイトルの「ガラテイア」とは、ギリシャ神話に登場する女性像のこと。自らが作った彫像に恋焦がれるピグマリオンの祈りを聞き届けたアフロディテによって、彫像は人間となってピュグマリオンと結ばれるという物語。 本書のメインプロットは、小説家である「…

暗号機エニグマへの挑戦(ロバート・ハリス)

サイモン・シンの『暗号解読』でも、ドイツ軍の暗号機エニグマの解読は大きな山場でした。本書は、チューリングを擁してエニグマを解読した、イギリスのブレッチレー・パークを舞台に、天才数学者たちが巻き込まれた諜報事件がテーマのサスペンス小説です。 …

おそろし(宮部みゆき)

この本は宮部さん得意の時代小説という体裁をとっているし、江戸時代の人情や不思議を描いたものなのですが、全体として読むと、全然違う種類の小説に仕上がってるんですね。ジャンルとしては、「ファンタジー」といったほうが近いかもしれません。ただし、…

悲楽観屋サイードの失踪にまつわる奇妙な出来事(エミール・ハビービー)

祖国にあって祖国を喪失し、敵国の市民、しかも2級市民として生きる者たちがいます。総人口の20%に及ぶ、イスラエルに在住するパレスチナ人たちの生活は不条理そのもの。 本書の主人公は、サイード(幸せな男)という名を持つありふれたパレスチナ人男性で…

汐のなごり(北重人)

藤沢周平さんの「海坂藩」の舞台は郷里の鶴岡のようですが、本書で描かれる「水潟」は鶴岡からも程近い酒田のことのようです。やはり作者の郷里なんですね。 奥州屈指の湊町として栄えた商都・酒田のことですから、本書に登場するのは商人たち。北前船が着く…

死者の書(ジョナサン・キャロル)

マーシャル・フランスという、架空の童話作家を巡る物語です。1922年にオーストリアで生まれ、16歳で単身渡米してからは生涯の大半をミズーリ州のゲイレンという小さな街で過ごし、既に亡くなった作家です。 本書の主人公トーマス・アビイは、有名な映…

修道士カドフェル2 死体が多すぎる(エリス・ピーターズ)

12世紀イギリスの地方都市、ウェールズ国境にも近いシュルーズベリを舞台にした歴史ミステリ「修道士カドフェルシリーズ」の2作目です。 第1作ではよくわからなかった時代背景が、この作品ではっきりとしてきます。ヘンリー2世によるプランタジネット朝…

ディファレンス・エンジン(ウィリアム・ギブスン、ブルース・スターリング)

ディファレンス・エンジン・・「差分機関」。1822年、イギリスの数学者チャールズ・バベッジが王立学会に提案した蒸気駆動式計算機は、当時の技術水準では完成に至りませんでした。しかし、もし、それが実現していたら広がっていたかもしれない世界を、…

ブルー・ヘブン(C・J・ボックス)

心優しいワイオミング州猟区管理官、ジョー・ピケットを主人公とする、「自然保護ミステリ」のシリーズを書き続けている著者ですが、本書はこのシリーズとは別で、カナダ国境にもほど近い北部アイダホを舞台にした本格サスペンス。 広大な森林や牧場の残るこ…

神話がわたしたちに語ること(カレン・アームストロング)

角川書店から刊行されている「新・世界の神話」シリーズの第一弾は小説ではなく、神話の持つ意味を現代に問いかける「神話・宗教論」でした。 「人間は常に神話を生み出してきた」という言葉で始まる本書は、神話シリーズのガイドという役割を持っているので…

桜庭一樹~物語る少女と野獣~

思いっきり綺麗に撮影されている表紙写真からはじまる、桜庭ファンのための企画本ですね。書き下ろし小説『ライティング』や、中学時代に書いたという『ブルマー三部作』をはじめ、単行本未収録の短編や、インタビューやQ&Aなどを集めて単行本化されたも…

ゾリ(コラム・マッキャン)

1930年代のスロヴァキアでファシストに家族を惨殺され、祖父とともに辛くも生き延びたジプシーの少女ゾリは、仲間との旅暮らしのなかで歌にのせる言葉を紡ぎ出す楽しさを知って、ジプシーの掟でタブーとされる読み書きをひそかに習います。 戦後、社会主…

サーカス象に水を(サラ・グルーエン)

川副智子さんが「激しく好みでございます」と激賞して、翻訳を開始したという本。ホームで暮らす93歳の老人ジェイコブは、70年前の出来事を鮮明に思い出します。それは1931年。大恐慌と禁酒法の時代。名門大学の獣医学部に学ぶジェイコブは、卒業を…

僕僕先生2 薄妃の恋(仁木英之)

『僕僕先生』シリーズ2作めですが、畠中恵さんの『しゃばけ』シリーズに似てきた感じ。頼りない主人公が不思議な体験をしながら成長していく物語。でもこのシリーズの主人公・王弁が『しゃばけ』の若旦那と違うのは、恋をしていること。実態は謎ですが普段…

アトラスの使徒(サム・ボーン)

ユダヤ教の聖典によれば、この世界は36人の「正しき人々」に支えられており、人知れず善行を積んでいる彼らがいなくなったら、世界は終わりを迎えるとのこと。ただし、これは人間世界の終焉であって、「神の国」が姿を現すとの解釈もあるようです。 売春宿…

マーブルアーチの風(コニー・ウィリス)

5作品を集めた短編集。新作ではないのが残念ですが、どの作品も高水準です。『リメイク』の作者らしく、古今東西の侵略映画やクリスマス映画もたくさん登場し、表題作を除いてはコメディ・タッチでSF色もそれほど濃くなく、読みやすい作品集でした。 「白…

皇妃エリザベート(藤本ひとみ)

近世から近代にかけてのヨーロッパ史は、そのまま、ハプスブルグ帝国の衰退の歴史です。16歳の時にオーストリア帝国の最後の皇帝となったフランツ・ヨーゼフ1世と結婚して、美貌と慈悲の女神とうたわれたエリザベートは、ハプスブルグの衰退を早めてしまっ…

血液と石鹸(リン・ディン)

ベトナム人の著者は、サイゴン陥落とともにアメリカに移住し、現在はまたベトナムに戻っているそうです。途中、イタリアに滞在していたこともあって、本書はイタリアで書かれた作品が中心の短編集。 1冊の本に納められている短編の数は、なんと37作品! …

運命の日(デニス・ルヘイン)

アメリカを超大国にのし上げた「黄金の1920年代」。でもその前夜には、激動の嵐が吹き荒れた2年間があったのですね。本書は、第一次世界大戦末期の1918年にはじまります。第一次世界大戦の終結を間近に控えて、続々帰国してくる戦争帰還兵がもたら…

2008/10 見知らぬ場所(ジュンパ・ラヒリ)

10月は「読書の秋」にふさわしく、『新世界より』、『テンペスト』、『警官の血』、『ベイジン』と、日本人作家による素晴らしい長編小説をたっぷり堪能することができました。ル・グウィンさんの新シリーズも期待に違わない素晴らしい作品でしたし、『ハ…

博物館の裏庭で(ケイト・アトキンソン)

1952年にイングランド北部ヨークのペットショップ屋に生まれたルビー・レノックス。自分が受胎する瞬間からルビーが語り始める「自分史」は、母親バンティー、父親ジョージ、姉のパトリシアとジリアンとの愛憎の物語なのですが、それだけではありません…

傷だらけの天使(矢作俊彦)

30年前の大ヒットドラマ「傷だらけの天使」については、井上堯之バンドの軽快な音楽に乗ってヘッドフォンにゴーグル姿の萩原健一さんが、むさぼるように朝食を食べるオープニングの場面と、彼を「アニキィ~」と呼んでいたチンピラ風の水谷豊さんが亡くな…

ハリーポッターと死の秘宝(J・K・ローリング)

ついに全7巻を、遅ればせながら読了です。この超人気作品を年内に読めるとは思ってませんでした。はじめは「ちょっと不思議な学園もの」かとも思わせたシリーズでしたが、巻が進んで主人公たちが成長するに連れて著者の世界観も形をとりはじめ、ストーリー…

「読書ノート1000冊」達成!

2004年7月からつけはじめた読書ノートが、4年4ヶ月かけて1000冊に到達しました。1000冊読んだことより、1000冊分の記録をつけたことに、我ながら驚いています。こんなに続けられるとは思っていませんでしたし、よく書き続けられたもので…

荒野(桜庭一樹)

直木賞を受賞した『私の男』の暗いテーマには引いてしまいましたが、受賞第一作のこの本は、思春期の少女の心の揺れを描いてくれた、いい作品でした。 主人公の少女、山野内荒野の12歳から16歳の環境は、恋愛小説家で浮気性の元美男子の父親と、再婚相手…

密偵ファルコ 3.錆色の女神(リンゼイ・デイビス)

紀元71年、ネロ後の混乱を制したウェスパシアヌス皇帝の治世も3年目に入ったローマ。これまで皇帝直属の密偵として、ブリタニアの銀鉱山での不正を暴き、ローマ南部での叛乱の兆しを未然に防ぐことに成功したファルコですが、今回は、ローマ市民となった…

まだ人間じゃない(フィリップ・K・ディック)

ディックの短編集ですが、先に読んだ『ゴールデン・マン』と合わせて一冊だったそうです。どの作品も、豊かで常人の意表を衝く発想で満ち満ちていて、ディックが「最も映画化されたSF作家」だということが実感できること間違いなし! 「フヌールとの戦い」…

潜入捜査(今野敏)

ブロガーさんたちの間で話題になっている『隠蔽捜査』を読もうとして、まちがってこの本を借りてしまいました。これは10数年前に書かれたもので、元題が『聖王獣拳伝』(なんてタイトル!)。作者自身、「小説を書くことがわかっていなかった時代の作品」…