りぼんの読書ノート

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死者の書(ジョナサン・キャロル)

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マーシャル・フランスという、架空の童話作家を巡る物語です。1922年にオーストリアで生まれ、16歳で単身渡米してからは生涯の大半をミズーリ州のゲイレンという小さな街で過ごし、既に亡くなった作家です。

本書の主人公トーマス・アビイは、有名な映画俳優であった父の影に束縛され、不気味な仮面を愛好するという不安定な青年ですが、彼が愛してやまないマーシャルの伝記を書こうと思い立ち、恋人のサクソニー(彼女もまたマーシャルの大ファンで、マリオネット蒐集という奇妙な趣味の持ち主です)とともに、マーシャルの娘を訪ねてゲイレンを訪れます。

ところが、ゲイレンというのは不思議な街でした。マーシャルのエージェントだった男から事前に仕入れた情報とは異なり、マーシャルの娘が愛想良く協力的だったのはともかく、住民の名前がゲイレンの童話の登場人物であったり、少年がトラックにはねられたにもかかわらず、皆が聞いてくるのは「事故の前に少年が笑っていたかどうか」。やがて住民の顔が童話のキャラクターに見え出したり、ブルテリア犬が人間の声で寝言を言うに至って、トーマスは不思議な真実を知ることになるのですが・・。

でも、物語がダークになってくるのはここからなのです。そして、最後の最後に、予想もつかない展開が読者を待ち構えているのです。

この本は「創作」と「創造」をテーマにしたダーク・ファンタジーとでも言えるのでしょうが、同時に、偉大な父親の影でしかなかったトーマスが自立する物語にもなっていたのですね。ジョナサン・キャロルの処女作だそうですが、はじめから高水準の作品です。

2008/11