りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

暗号機エニグマへの挑戦(ロバート・ハリス)

イメージ 1

サイモン・シン暗号解読でも、ドイツ軍の暗号機エニグマの解読は大きな山場でした。本書は、チューリングを擁してエニグマを解読した、イギリスのブレッチレー・パークを舞台に、天才数学者たちが巻き込まれた諜報事件がテーマのサスペンス小説です。

物語は、1943年3月に始まります。いったん解読に成功していたエニグマが、突如として解読不能となったのです。まだコンピューターはなく、ボンブと呼ばれた機械式演算機しかなかった頃ですから、原理的には解読できていても、暗号キーを変更されたらそれを見出すのに数ヶ月もかかる可能性もあった時代。折りしもアメリカからの大補給船団が続々と大西洋を渡って来る時期であり、4日以内に解読できずUボートに襲われたら、戦車も燃料も食料も、もちろん人命も失われてしまう!

過労と失恋の痛手で倒れて静養していた若き天才数学者ジェリコが、急遽呼び戻されますが、今度はやはり解読センターで働いていた元恋人のクレアが失踪するという事件が起こり、彼女にスパイの嫌疑がかけられます。

そもそもイギリスがエニグマ暗号を解読できていたことは最大の機密事項だったわけで、ドイツ海軍に暗号キーを変えさせたのは、スパイによる機密漏洩のせいかもしれないんですね。期限内の暗号解読というノルマを抱えながら元恋人の失踪の謎を追うジェリコは、輸送船団も、元恋人も救うことができるのでしょうか・・。

Uボートの犠牲になった輸送船団や、イギリスが傍受しながら解読をやめたポーランド領内のドイツ軍通信基地からのメッセージなど、情報戦争の史実に立脚した、興味深い小説でした。もちろん、ラストの意外な展開なども含めて、サスペンスとしても秀逸です。

2008/11