りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

マーブルアーチの風(コニー・ウィリス)

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5作品を集めた短編集。新作ではないのが残念ですが、どの作品も高水準です。リメイクの作者らしく、古今東西の侵略映画やクリスマス映画もたくさん登場し、表題作を除いてはコメディ・タッチでSF色もそれほど濃くなく、読みやすい作品集でした。

白亜紀後期にて」
白亜紀末に起きた、恐竜の大絶滅。滅び去るべき存在は、大学の古生物学科なのか、無茶な改革に乗り出した新任の教授なのか。ドゥームズデイ・ブック犬は勘定に入れませんを思わせる、大学教授たちのコミカルな会話も楽しい作品です。

「ニュースレター」
クリスマスを控えて街の人々が善人になって行きます。礼儀正しく行列に並び、交通事故も減り、図書館本は返却され、チャリティ募金も順調に増加。ふと気がつくと、帽子をかぶっている人が増えているけれど、これは何かの侵略なのか?主人公ナンは、このほうがいいのではないかと悩むのですが・・。

「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」
家ごとに派手な趣向を凝らすようになったクリスマスのプランニングをする会社に舞い込んだ不思議な注文は、会社を乗っ取ろうとする陰謀なのでしょうか。いえいえ、これはクリスマスシーズンにふさわしい、メロドラマだったのです。^^

「マーブル・アーチの風」
本書の中で唯一シリアスな作品。20年ぶりにロンドンを訪れたトムは、地下鉄内で突然の爆風に襲われるのですが、周囲の者は誰もこの風を感じなかったようなのです。大戦中のロンドン空襲で被害を受けた地下鉄駅で感じられる爆風の秘密を探ろうと地下鉄を巡るトムが見出したのは、思いもよらない真実でした。名作航路の1年前に書かれたという短編で、同じ主題が扱われています。

「インサイダー疑惑」
ベヴァリーヒルズのセレブを相手にいんちきチャネリングで荒稼ぎする女霊媒師に憑依した霊は、前世紀にオカルト詐欺やニセ科学を批判しつづけた実在のジャーナリスト、メンケンでした。彼はいったいどうしたら良いのでしょうか?

サイエンスやガジェットに凝ったSF作品ではありません。あくまでもSF的なプロットで「人間」を描き続けている作者ですが、これがおもしろいのです。

2008/11