りぼんの読書ノート

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ディファレンス・エンジン(ウィリアム・ギブスン、ブルース・スターリング)

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ディファレンス・エンジン・・「差分機関」。1822年、イギリスの数学者チャールズ・バベッジが王立学会に提案した蒸気駆動式計算機は、当時の技術水準では完成に至りませんでした。しかし、もし、それが実現していたら広がっていたかもしれない世界を、鬼才たちが描き出します。

19世紀後半、ラッダイト運動も終息し世界帝国に向かって発展しつつある英国では、バイロン卿(史実では詩人)が率いる産業急進党が産業革命を推し進めており、焦りを感じたフランスは、巨大エンジン「グラン・ナポレオン」を製造して対抗しようとしています。

バイロン卿の一人娘エイダ(史実ではバベッジを手伝った数学者)は、「エンジンの女王」としてある重要なプログラムを所有しているとされ、それを巡る人々が、ガス灯の燈るロンドンの夜に暗躍するのです。

火薬と蒸気の時代の冒険物語が、最先端の情報分析ツールと同居する錯綜した世界。テキサス共和国のヒューストン大統領はロンドンで暗殺され、森有礼福沢諭吉は複製エンジンの輸入に奔走する。ニューヨークの革命政権を率いるカール・マルクスは、ロンドンで反政府労働者運動を組織し、アメリカ西部で恐竜を発掘した大碩学のマロリー(史実では長命の帽子屋!)は命を狙われる。

やがて、マイル単位のギア長を誇るディファレンス・エンジンは、膨大なパンチカードによる膨大な情報の集積を進めていき、ついにある高みに到達するのですが・・。

こういうのを「スチーム・パンク」というのでしょう。ビクトリア朝の文化と行動様式を持った人々が、内燃機関も、電力も、核も存在せずに蒸気だけをエネルギーとする世界で、21世紀の現代を超える科学文化を駆使する物語はおもしろかったのですが、オチが『ニューロマンサー』と一緒というのは残念!

2008/11