りぼんの読書ノート

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ペネロピアド(マーガレット・アトウッド)

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紀元前8世紀のギリシャ、詩人ホメロスが描いた壮大な冒険物語「オデュッセイア」では、英雄オデュッセウスの妻であるペネロペイアは、徹底的に貞淑な妻として描かれています。

10年続いたトロイ戦争後、さらに10年以上も放浪の旅をさすらっていたオデュッセウスを孤独に待つ間、王なき王国イタケーを守り、息子を育てあげ、数多くの求婚者たちを拒み続けたぺネロペイアの物語は美談として伝わっていますが、アトウッドさんの解釈は違うようです。

そもそも、この神話には不思議な側面があるのです。ついに帰還を果たしたオデュッセウスが、ペネロペイアに言い寄る求婚者たちを惨殺したのは理解できるとして、ペネロペイアに仕えた12人の女官たちも処刑されてしまうのは何故なのか。一応、求婚者を退けなかったことが女官たちの罪とはされているのですが・・。

12の月の惨殺というあたりが、女系社会が男系社会にとって代わられたことを意味するというのですが、これはそれほど目新しい解釈ではないのでは? むしろオデュッセウスの語る一つ目巨人キュクロプスやセイレーンの女神との冒険譚を、酒場の主人や娼婦との物語と理解しないでそのまま信じてあげる代わりに、自分のことも貞淑な妻バージョンの物語として後世に伝えて欲しいという、仮面夫婦的な部分を膨らませたほうが現代的にも思えます。

妻ペネロペの立場から神話を再構成した本書は、ホーソーンの『ウェイクフィールド』に対するベルティの『ウェイクフィールドの妻』のような作品なのですが、正直言ってこの程度の話ならわざわざアトウッドさんを起用することもなかったかなという感じ。

「新・世界の神話」シリーズの第1弾ですが、このシリーズに失速感が出ているのも仕方ないかもしれません。企画が成功するかどうかは、作品次第ですよね。

2008/11