りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

荒野(桜庭一樹)

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直木賞を受賞した私の男の暗いテーマには引いてしまいましたが、受賞第一作のこの本は、思春期の少女の心の揺れを描いてくれた、いい作品でした。

主人公の少女、山野内荒野の12歳から16歳の環境は、恋愛小説家で浮気性の元美男子の父親と、再婚相手の綺麗な義母と、義母の連れ子の同級生の成績優秀な男の子という家庭生活と、同性愛傾向がある美少女と健康的スポーツウーマン美少女の親友。まるで少女コミックのような「ありえない」設定なのですが、荒野本人はいたって普通のおとなしい女の子。

いや、普通じゃないかもしれません。荒野は「普通じゃない」環境が彼女にもたらす影響に悩んだり、違和感を覚えたりしながらも、反発することなく、いたって自然に受け入れるのですから。でもそれは「普通の女の子」が「普通の環境」の中で色んなことを受け入れて同化して、結果的に成長の糧としてきたことと大して違いはないようにも思えます。

荒野は、女の子から少女へ、少女から女性へと、揺れ動きながらも成長していきます。今まで「おかえり」と迎えてもらってばかりだった家庭で、義母を「おかえり」と迎えて、自分が成長したことを感じてしまい、ある種の寂しさを感じてしまうエンディングなどは、元・少女だった者なら痛いほどに理解できる感覚でしょうか。

2年後に迫った高校卒業で皆ばらばらになっていくことを「爆発」と捉えて「ここは爆心地」というような表現の凄さなんかは、思いっきり理解できちゃいますね。鎌倉の小町通りのお店で売っているという「うさまん」もおいしそうですし。^^

2008/10