りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

サーカス象に水を(サラ・グルーエン)

イメージ 1

川副智子さんが「激しく好みでございます」と激賞して、翻訳を開始したという本。ホームで暮らす93歳の老人ジェイコブは、70年前の出来事を鮮明に思い出します。それは1931年。大恐慌禁酒法の時代。名門大学の獣医学部に学ぶジェイコブは、卒業を間近にして両親の事故死と破産に直面し、試験を放棄して放心状態で線路を歩き始めます。

そんな彼を拾い上げたのが、移動サーカス一座の列車。正式な資格はないものの獣医として雇われたジェイコブは、サーカス一座と行動をともにするのですが、そこは、見かけの華やかさとは異なり、差別や不正が横行する世界でした。

列車を連ねての興行先への移動、興行テントを立てる時の興奮、破産したサーカスの併合、みすぼらしいサイドショー、あこぎで冷酷な団長、裏方への差別、禁酒法時代の危険な夜、曲芸馬を操るマーリーンに対する恋心、彼女の夫である調教師との確執、芸のできない象。そして、ついに大惨事が起こり、破局が訪れるのです。

それから70年。ホームの近くの広場にやってきたサーカスは老いたジェイコブの運命を再び変えることになるのですが・・。

大恐慌時代の移動サーカスという猥雑で魅力的な世界と、その時代の煌きをかけがえのないものとして思い出す老人の心と、どちらも魅力的に描かれた作品でした。私も「好みでございます」。^^

2008/11