りぼんの読書ノート

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ゾリ(コラム・マッキャン)

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1930年代のスロヴァキアでファシストに家族を惨殺され、祖父とともに辛くも生き延びたジプシーの少女ゾリは、仲間との旅暮らしのなかで歌にのせる言葉を紡ぎ出す楽しさを知って、ジプシーの掟でタブーとされる読み書きをひそかに習います。

戦後、社会主義政権下のチェコで革命詩人ストラーンスキーとイギリス人の翻訳家スワンに見いだされたゾリは、「完璧なプロレタリア詩人」として一躍文壇の寵児となるのですが、内部の話を外部に漏らすこと、しかもそれを文字にして残すなど、ジプシーにとって許されない大罪でした。

やがて社会主義政権が変質していく中でストラーンスキーが処刑され、ジプシーを強制的に定住化させてスラムに押し込む政策が実施されるに至って、ゾリはジプシーから追放されます。彼女に熱烈な恋心を抱くスワンも置き去りにして、ひとり徒歩でパリを目指すゾリ。もちろん、冷戦時代にパスポートも移動手段も持たない女性が、いくつも国境を越えてパリにたどりつけるはずもありません。彼女の願いは、40年後に思いもよらない形で叶うことになるのですが・・。

表紙の写真にある、家馬車の荷台に腰掛けて揺られていく、強い目力をたたえた黒い瞳の女性のなんと魅力的なことか。ゾリは創作上の人物ですが、実在のジプシー詩人パプーシャがモデルとなっているとのこと。彼女もまた、このように人を惹きつける力を持った女性だったのでしょう。

それにしても、ジプシーの定住化を進めるために、馬車の車輪を集めて燃やしてしまったとは! 動かなくなった家馬車を背にして、炎上する車輪を茫然と見守るジプシーたち。全く知らなかった歴史の一こまの描写ですが、とっても印象に残りました。

2008/11