りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ラジ&ピース(絲山秋子)

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FM局アナウンサーの野枝は、人との関わりが苦手で、容姿にも強い劣等感を抱いています。ラジオ局に入社したのも、東京を避けたのも、自分で「対人バリア」を張りまくった結果。入社後もディスクジョッキーを務める番組以外の全てが嫌いで、スタジオだけが居場所という感じ。

でも、彼女は何かを求めていたのかもしれません。ある意味では東京よりも便利な地方都会の仙台を去って、群馬の高崎に転勤したのですから。

もちろん、それだけでは何も変わりません。飲み屋でずうずうしく近寄ってきた女医の沢音に同じ匂いを感じて友達づきあいをはじめても彼女の本質は変わりません。でも、リスナーたちを近くに感じるという奇跡が起きました。その瞬間の描写が素晴らしい中篇です。

FMぐんまで、タイトルと同名の曲を作って「ラジ&ピース」というキャンペーン中だとのこと。
リスナーたちが空を飛んで、スタジオの野枝のそばに座るのだった。はしゃぎながら、はにかみながら話すのだった。そして心だけを寄せて黙ってにこにこしているリスナーもいた。通り過ぎていくリスナーもいた。少しだけそこにいて、帰って行くリスナーもいた。退屈そうにあくびをするリスナーもいた。けれど、エアステーションのからっぽのブースに、たくさんの心が集まるのだった。目に見えぬリスナー、言葉を発さぬリスナーと心が寄り添っていくのを野枝は感じた。――<本文より>
併録されている「うつくしまふぐすま」の主人公、中野香奈(なかのかな)が出会う、同姓同名の回文女子とのさっぱりした友情関係もいいですね。

「終った男と別れて爽快な気分になる」とか、「オトコなんて体が全て。オンナは脳味噌」なんてフレーズは、絲山さんの「男らしさ」を感じさせてくれました。沖で待つで有名になった「同期のためならなんだってする」という言葉と根は一緒かな。

2008/9