りぼんの読書ノート

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カルメン/タマンゴ(メリメ)

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ビゼーのオペラで有名な「カルメン」を初めて読みましたが、オペラの物語とは大きく異なっているので驚きました。原作からは「野性美にあふれた悩殺的美女で悪女」というカルメンの女性像を取り入れましたが、それ以外は相当に手を加えたようです。カルメンに翻弄されるホセはアンダルーシア随一の大悪党から純情一途な男に変えられ、原作では端役の闘牛士ルーカスはホセのライバルとして抜擢されています。ホセの婚約者ミカエラなど、影も形もありません。 

 

オリジナルは、著者のメリメとおぼしき語り手がスペインの山中で大悪党のドン・ホセと出会って意気投合し、彼を追手から逃がしてあげたことで恩義を感じられるようになります。やがて悪女カルメンと出会って危地に陥った語り手がホセに救われるエピソードの後に、獄に繋がれたホセと再会。嫉妬心から悪女カルメンを殺して自首し、絞首刑を待つホセが語ったのが、カルメンとの悲恋物語なのです。 

 

ジプシー女であるカルメンと、バスク男であるドン・ホセの組み合わせは、現代的な視点からは人種差別的な要素を含んでいますが、これは19世紀半ばという時代としては仕方のないところなのでしょう。末尾に相当のページを割いて語られるジプシーについての考察は冗長ですが、かなり正確な文献に基づいているようです。 

 

奴隷船長の奸計に落ちた黒人奴隷売人が大西洋上に反乱を起こすものの破滅に至る「タマンゴ」が併録されています。こちらも現代的な視点には耐えきれませんが、物語としては波乱万丈で楽しめます。 

 

2020/2