りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2006-12-01から1ヶ月間の記事一覧

象の消滅(村上春樹)

ニューヨーカーに選ばれて日本に再上陸した、村上春樹さんの初期短編集。私としては「長編」のほうがずっと好きですが、「短編」にはエッセンスが詰まってます。でも17編も詰まっていると、全ての作品に触れるのは不可能ですね。 彼の小説には「僕」が登場…

オケアノスの野望を砕け(クライブ・カッスラー)

海洋冒険小説といったら、この人ですね。作者自身、沈船のサルベージが趣味というのですから。 でも、アメリカの架空の組織であるNUMA(国立海中海洋機関)の職員を活躍させるこのシリーズも、途中からキナ臭くなりました。世界平和への敵をどんどん登場させ…

ダイスをころがせ(真保裕一)

読書ノート仲間のガラがお勧めしていた真保さんの本です。 職を失い妻子と別居中の34歳の男が、高校時代のライバルから誘われる。「次の衆院選に立候補する。共に戦ってくれ」と。コネなし。金なし。知名度なし。あるのは理想のみ。政党に所属せず、昔の同…

県庁の星(桂望実)

織田祐二と柴崎コウの主演で映画化された話題作です。県庁に勤めるエリート役人が民間との人事交流研修に出た先は、めちゃくちゃローカルの冴えないスーパーマーケット。 お役所用語と人脈の間の遊泳術で完璧に武装したエリートも、マニュアルも組織図もない…

秀吉の枷(加藤廣)

『信長の棺』で颯爽とデビューした70歳の新人、加藤さんの第二作。 秀吉を古代において天皇家に仕えていた丹波の賤民の末裔である尊王思想の持ち主として描き、光秀のクーデターを事前に知りながら、皇位を簒奪しようとしていた信長をついに本能寺にて横死…

うそうそ(畠中恵)

『しゃばけ』シリーズの最新作です。第1巻以来の久々の長編。病弱な若旦那の一太郎が、箱根に湯治に行くことになりました。 「箱根に行くくらい、簡単だろう」って? このシリーズを読んでいる人なら、日本橋の外へでることもままならない一太郎が、箱根へ…

ゲド戦記6 外伝(ル=グィン)

「外伝」というから、ゲドや仲間たちが活躍したエピソードの数々が収められていると思ったら、そういう話はひとつだけ。(『湿原』)。作者が作り上げたアースシーの世界を、より理解するための1冊となっています。5つの短編と巻末の「アースシー解説」か…

ゲド戦記4 帰還(ル=グィン)

「3部作」と言われていたシリーズの、16年後に書かれた第4部。16年のブランクは、シリーズの思想を、根本から変えてしまいました。 作者は、3巻までの「魔法の世界」を壊そうとしているかのようです。問われているのは「世界にとって魔法は善きことな…

ゲド戦記3 さいはての島へ(ル=グィン)

ジブリによる映画化は、この巻をメインとしたストーリーだそうです。「ネタばれ」を含むので、映画を見ようとしている人は読まないでください! テナーとともに「平和をもたらす腕輪」を持ち帰ってから25年後、壮年期を迎えたゲドは「大賢人」として魔法の…

ゲド戦記2 こわれた腕輪(ル=グィン)

魔法使いゲドの生涯とアースシー世界の光と闇を描く物語の第2巻。 第1巻で自らの影におびえる少年だったゲドは、青年になっています。「平和をもたらす腕輪」の片割れを求め、異教の島に乗り込むのですが、そこで暗黒の地下迷宮を支配する大巫女アルハに囚…

アッコちゃんの時代(林真理子)

「秘密のアッコちゃん(古い~)」かと思ったら、全然違ってました。80年代末~90年代初のバブル期に、「時代の寵児」であった女性をモデルにした、ノンフィクションに近い小説だそうです。 「地上げの帝王」と称される男の愛人となり、有名レストランの…

ママは悪魔ハンター(ジュリー・ケナー)

ケイトはカリフォルニア州サン・ディアブロに住む専業主婦。地方公選弁護人になるべく選挙活動中の弁護士を夫に持ち、14歳の娘と3歳の息子の2児の子育てに多忙な普通の主婦。でも、ただひとつ違っていたのは、奥様は「悪魔ハンター」だったのです・・。 …

陽気なギャングの日常と襲撃(伊坂幸太郎)

映画化もされた伊坂さんのヒット作の続編です。 天才強盗4人組は、今回も健在。人間嘘発見器・成瀬は、刃物男騒動の影で起こった強盗事件に遭遇。演説の達人・響野は、消えてしまった「幻の女」を捜索。体内時計の持ち主・雪子は、同僚に届いた謎の招待券の…

ドラママチ(角田光代)

人生のどこかで、立ち止まってしまったままでいる女たち。「こんなはずじゃなかったのになぁ」と思いながら、皆そこから一歩を踏み出すための「何か」を待っています。 その「何か」とは、人それぞれ。妊娠、恋愛、プロポーズ、ドラマチックな出来事・・。待…

輝く日の宮(丸谷才一)

『源氏物語』の1巻として実在したかもしれない「輝く日の宮」の巻。森谷明子さんが「千年の黙(しじま)]」で同じテーマを扱っていました。そちらでは、この1巻が失われた謎を紫式部自身に解かせていたのに対し、こちらはなんと紫式部とシンクロした主人公…

わたしたちが孤児だったころ(カズオ・イシグロ)

「孤児小説」ともいうべきジャンルがあります。『デビッド・カパーフィールド』、『ジェイン・エア』、『サイダーハウス・ルール』・・。幼くして自立するリアリストでありながら、愛情に飢えている主人公たち。 でも、上に挙げた作品の主人公たちは皆、生ま…

太陽の塔(森見登美彦)

絶望的に女性と縁のない、休学中の京都大学5回生。ただ一度つきあったことのある水尾さんにはあっさりと振られ、それでも彼女と「偶然」出会う機会を求めて、付きまとう。これは、彼に言わせれば、高尚な「水尾さん研究」であって、決してストーカー行為な…

ボーン・コレクター(ジェフリー・ディーヴァー)

捜査中の事故で四肢麻痺の体となってしまったリンカーン・ライムと、彼の手足となって捜査を進める女性巡査アメリア・サックス。この2人の名コンビが解き明かすミステリーシリーズの第1作です。 1999年「このミステリーがすごい!」海外編2位の作品。…

S&Gグレイテストヒッツ+1(橋本治)

「S&G」と略されているのは「サイモン&ガーファンクル」。1960~70年代にかけて活躍した、フォークデュオ。彼らのベストアルバムに収録された作品と、同じタイトルで小説を書くという趣向を凝らした短編集です。 出張に持っていってしまったから仕…

交渉人(五十嵐貴久)

映画へのオマージュ作品を書き続ける、五十嵐さん。この本も、意外などんでん返しで楽しませていただきました。 3人組のコンビニ強盗が、50人の人質をとって病院に立て籠もる。犯人と退治するのは、警視庁きっての「交渉人」石田警視生。成り行きで大事件…

痴情小説(岩井志麻子)

異常ともいえる愛の世界を描いた、13編のショートストーリー。どの作品も、例によって「岡山の女」が主人公。 岡山女には、東京もベトナムも韓国も、みな異国なのでしょうか。異国の男と情事を重ねても、決して満たされない。いつの間にか、死の匂いが漂っ…

バルトの楽園(古田求)

日本で最初にベートーベンの「第九交響曲」が演奏されたのは、徳島県の、今は鳴門市に編入された坂東村という所だそうです。ここには、かつて、捕虜になったドイツ兵の収容所がありました。 第一次世界大戦で日本は、中国の青島にいたドイツ軍を破って数千人…

ハリーポッターと謎のプリンス(J・K・ローリング)

第6巻です。いよいよ残すところは、あと1巻になりました。作者が予告していた通り、ハリーと仲間たちのストーリーは、徐々に「学園もの」から離れようとしています。 ドラコは単なる嫌味なマセガキから一線を超えてしまったのか。スネイブは本当にダンブル…

第九の日(瀬名秀明)

瀬名さんの「ロボット小説」は4作目。シリーズ化しつつあるようです。前作『デカルトの密室』の、祐一、玲奈、ケンイチが再登場する短編集。祐一が製作して「育てた」ロボットであるケンイチが、ひとりで、あるいは玲奈とともに出会う、事件の数々。それは…

シネマ・シネマ・シネマ(梁石日)

明らかに作者自身をモデルにした、在日韓国人作家のソン。飲んだくれの無頼派で、印税は前借りに消え、原稿遅れは日常茶飯事。そんな彼が巻き込まれた、映画制作に取り付かれた者たちの物語。 前半は、家族の絆を描いた在日女流作家の作品の映画化の話。なん…

日の名残り(カズオ・イシグロ)

品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスでしたが、第二次世界大戦後、長らく仕えてきたダーリントン卿は没落。今は、屋敷を手に入れたアメリカ人の新しい主人に仕えています。 既に引退して結婚している、かつての女中頭に再会するため、老執事ス…

なぜ、あなたはここにいるの?カフェ(ジョン・ストレルキー)

仕事に追われる毎日から逃れて、ドライブ旅行に出たジョン。渋滞の高速道路を避けようと一般道路に出たら迷ってしまい、夜中にたどりついた不思議なカフェ。 このカフェには人生を変えてしまうメニューがありました。メニューにある言葉は「なぜ、あなたはこ…

おまけのこ(畠中恵)

「しゃばけ」の、病弱な若旦那シリーズ、第4弾です。 日本橋大店の若旦那・一太郎が、どうして妖に守られているのかは、「しゃばけ」を読んでいただかなくてはいけないのですが、今日も元気に寝込んでいるあいかわらず病弱な一太郎と、頼れるわりにちょっと…

オールウェイズ・カミングホーム(ル=グィン)

「ゲド戦記」の作者の本ですが、ティストは全く違っています。この本は、2万年後のカリフォルニアのヴァレーに住む人々の生活を、まるで、「人類学のテキスト」のような形で紹介しているのです。 それは、彼女の言うところの「未来の考古学」。そこにあるの…

マンハッタンの怪人(フレデリック・フォーサイス)

ミュージカル史上に燦然と輝く名作「オペラ座の怪人」の続編を、巨匠フォーサイスが書いた・・というだけで興味津々だったのです。 「オペラ座の怪人」の舞台は、19世紀末のパリ。心を閉ざしたままオペラ座の地下世界を支配していたファントムは、歌姫クリ…