りぼんの読書ノート

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輝く日の宮(丸谷才一)

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源氏物語』の1巻として実在したかもしれない「輝く日の宮」の巻。森谷明子さんが「千年の黙(しじま)]」で同じテーマを扱っていました。そちらでは、この1巻が失われた謎を紫式部自身に解かせていたのに対し、こちらはなんと紫式部とシンクロした主人公に復元させてしまいます。

主人公は、19世紀日本文学を研究する杉安佐子。冒頭に彼女が中学生の時に書いた泉鏡花風の小説が紹介されていて、想像力が旺盛なことや、物語趣味があることが示されます。長じて文学研究者になった安佐子は、シンポジウムで対立した源氏研究者の卑劣な態度に応えるべく、新解釈を展開していきます。

想像の翼を自由に羽ばたかせ、閉鎖的な学会と闘う安佐子は魅力的。実生活での恋愛と、源氏物語の世界とが交差していくのですが、物語の決着がつかないままに終わるオープン・エンディングの手法は、源氏物語を髣髴とさせますね。^^

義母・藤壺との1回目の逢瀬が書かれていたはずの「輝く日の宮」は、紫式部パトロンであった藤原道長によって削除されてしまった・・という推測は、丸谷さんも森谷さんも共通しています。紫式部がそれを受容できたのかどうかについては、結論が違いますが。

紫式部の物語作者としての感性という点では森谷さんに軍配を上げますが、小説の趣向と魅力的な主人公によって互角というところでしょうか。

2006/7