りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

日の名残り(カズオ・イシグロ)

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品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスでしたが、第二次世界大戦後、長らく仕えてきたダーリントン卿は没落。今は、屋敷を手に入れたアメリカ人の新しい主人に仕えています。

既に引退して結婚している、かつての女中頭に再会するため、老執事スティーブンスは、イギリス西部への短い旅に出ます。彼の脳裏に浮かぶのは、栄光と品格に満ちた時代の思い出でした。卿に仕えることがより良い世界の創造に貢献することと信じて、父の死にも動ぜず、敬慕する卿の主催する国際会議を仕切ったこと。女中頭に対する淡い想いを、全く相手に気づかせることもないまま、彼女をほかの男性と結婚するにまかせてしまったこと・・。

過去を思い出しながら4日目まで続いた「旅日記」は、彼が想いを抱いていた女中頭と再会した5日目を飛ばして、いきなり「6日目」と題された最終章を迎えるのですが、それは彼が心の整理をつけた「空白の1日」だったのでしょう。

その日は女中頭から、彼女も彼に想いを抱いていたとの告白を聞き、それでも「もう元には戻れない」という重い現実を直視させられた日。さらに彼が執事として仕切った国際会議こそが、敬慕していたダーリントン卿がナチスに協力して、現在は戦犯扱いされていることの発端であったことを思い知らされた、辛い1日だったのですから・・。

彼が考える「執事の品格」とは「人前で衣服を脱がないこと」。それは、自分の感情や想いを、決してむき出しにしないこと。自身の過去の選択の過ちを認めざるを得ない寂しさを感じながらも、最後まで着衣のままでいようとの覚悟。「作品の品格」を感じます。

2006/7