りぼんの読書ノート

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女中譚(中島京子)

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秋葉原メイド喫茶に入り浸る、謎の老女こと「アキバのオスミババア」。まったく不思議な存在ですが、昭和初期の世界を女中、女給、時には女郎として生き抜いてきた彼女には、当時の文壇と密接に関わっていた過去があったのです。

まずは、林芙美子『女中の手紙』。この作品の主人公である、ヒモのような男に騙されて転落していく女中本人ではありませんが、その男から想いを寄せられて女中への手紙を代筆したのがオスミ。彼女は、そんな男にそそのかされるままの愚鈍な女に怒りを感じます。

次いで、吉屋信子『たまの話』吉屋信子の少女趣味小説で、日本人医師とドイツ人奥様の家庭に女中として入り、混血美少女のお嬢様と「いけない関係」になってしまった「たま」の後任女中がオスミでした。オスミは、「たま」には見えることがなかった、ドイツで勃興するファシズムの脅威と、お嬢様の皮肉な運命も見てしまうことになります。

そして、永井荷風『女中の話』。ここで荷風が描いた「オスミ」こそ、彼女本人です。オスミに想いを寄せながらも思い切った行動に出る勇気のなかった変人文士先生が、小説にはどう書いたのか。荷風のためらいや妄想など、オスミは笑い飛ばすのですが・・。

残念ながら、ここで「本歌取り」された3作品とも未読です。でも田山花袋の『蒲団』を「打ち直し」して、「女性のしたたかさ」を描いた傑作のFUTONと比較すると、著者の主張が弱くなっているような気がします。原点回帰ではあるのですが・・。

2009/9