りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2006-12-29から1日間の記事一覧

わたしたちが孤児だったころ(カズオ・イシグロ)

「孤児小説」ともいうべきジャンルがあります。『デビッド・カパーフィールド』、『ジェイン・エア』、『サイダーハウス・ルール』・・。幼くして自立するリアリストでありながら、愛情に飢えている主人公たち。 でも、上に挙げた作品の主人公たちは皆、生ま…

太陽の塔(森見登美彦)

絶望的に女性と縁のない、休学中の京都大学5回生。ただ一度つきあったことのある水尾さんにはあっさりと振られ、それでも彼女と「偶然」出会う機会を求めて、付きまとう。これは、彼に言わせれば、高尚な「水尾さん研究」であって、決してストーカー行為な…

ボーン・コレクター(ジェフリー・ディーヴァー)

捜査中の事故で四肢麻痺の体となってしまったリンカーン・ライムと、彼の手足となって捜査を進める女性巡査アメリア・サックス。この2人の名コンビが解き明かすミステリーシリーズの第1作です。 1999年「このミステリーがすごい!」海外編2位の作品。…

S&Gグレイテストヒッツ+1(橋本治)

「S&G」と略されているのは「サイモン&ガーファンクル」。1960~70年代にかけて活躍した、フォークデュオ。彼らのベストアルバムに収録された作品と、同じタイトルで小説を書くという趣向を凝らした短編集です。 出張に持っていってしまったから仕…

交渉人(五十嵐貴久)

映画へのオマージュ作品を書き続ける、五十嵐さん。この本も、意外などんでん返しで楽しませていただきました。 3人組のコンビニ強盗が、50人の人質をとって病院に立て籠もる。犯人と退治するのは、警視庁きっての「交渉人」石田警視生。成り行きで大事件…

痴情小説(岩井志麻子)

異常ともいえる愛の世界を描いた、13編のショートストーリー。どの作品も、例によって「岡山の女」が主人公。 岡山女には、東京もベトナムも韓国も、みな異国なのでしょうか。異国の男と情事を重ねても、決して満たされない。いつの間にか、死の匂いが漂っ…

バルトの楽園(古田求)

日本で最初にベートーベンの「第九交響曲」が演奏されたのは、徳島県の、今は鳴門市に編入された坂東村という所だそうです。ここには、かつて、捕虜になったドイツ兵の収容所がありました。 第一次世界大戦で日本は、中国の青島にいたドイツ軍を破って数千人…

ハリーポッターと謎のプリンス(J・K・ローリング)

第6巻です。いよいよ残すところは、あと1巻になりました。作者が予告していた通り、ハリーと仲間たちのストーリーは、徐々に「学園もの」から離れようとしています。 ドラコは単なる嫌味なマセガキから一線を超えてしまったのか。スネイブは本当にダンブル…

第九の日(瀬名秀明)

瀬名さんの「ロボット小説」は4作目。シリーズ化しつつあるようです。前作『デカルトの密室』の、祐一、玲奈、ケンイチが再登場する短編集。祐一が製作して「育てた」ロボットであるケンイチが、ひとりで、あるいは玲奈とともに出会う、事件の数々。それは…

シネマ・シネマ・シネマ(梁石日)

明らかに作者自身をモデルにした、在日韓国人作家のソン。飲んだくれの無頼派で、印税は前借りに消え、原稿遅れは日常茶飯事。そんな彼が巻き込まれた、映画制作に取り付かれた者たちの物語。 前半は、家族の絆を描いた在日女流作家の作品の映画化の話。なん…

日の名残り(カズオ・イシグロ)

品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスでしたが、第二次世界大戦後、長らく仕えてきたダーリントン卿は没落。今は、屋敷を手に入れたアメリカ人の新しい主人に仕えています。 既に引退して結婚している、かつての女中頭に再会するため、老執事ス…

なぜ、あなたはここにいるの?カフェ(ジョン・ストレルキー)

仕事に追われる毎日から逃れて、ドライブ旅行に出たジョン。渋滞の高速道路を避けようと一般道路に出たら迷ってしまい、夜中にたどりついた不思議なカフェ。 このカフェには人生を変えてしまうメニューがありました。メニューにある言葉は「なぜ、あなたはこ…

おまけのこ(畠中恵)

「しゃばけ」の、病弱な若旦那シリーズ、第4弾です。 日本橋大店の若旦那・一太郎が、どうして妖に守られているのかは、「しゃばけ」を読んでいただかなくてはいけないのですが、今日も元気に寝込んでいるあいかわらず病弱な一太郎と、頼れるわりにちょっと…

オールウェイズ・カミングホーム(ル=グィン)

「ゲド戦記」の作者の本ですが、ティストは全く違っています。この本は、2万年後のカリフォルニアのヴァレーに住む人々の生活を、まるで、「人類学のテキスト」のような形で紹介しているのです。 それは、彼女の言うところの「未来の考古学」。そこにあるの…

マンハッタンの怪人(フレデリック・フォーサイス)

ミュージカル史上に燦然と輝く名作「オペラ座の怪人」の続編を、巨匠フォーサイスが書いた・・というだけで興味津々だったのです。 「オペラ座の怪人」の舞台は、19世紀末のパリ。心を閉ざしたままオペラ座の地下世界を支配していたファントムは、歌姫クリ…

パズル・パレス(ダン・ブラウン)

「ダ・ヴィンチ・コード」で今をときめく作者のデビュー作。 「パズル・パレス」とは、世界最強の諜報機関NSAの別名です。NSAの野望は全ての情報通信を傍受して、解読することであり、NSAの悪夢は政府も解読できない暗号情報が勝手に飛び交うこと。…

ケッヘル(中山可穂)

「ケッヘル番号が、わたしをこの世の果てまで連れてゆく・・」。こんなものすごいコピーで、ストーリーも思いっきりドロドロ。でも最後までテンションが落ちていないのは、お見事です。 女性どうしの壮絶な恋に疲れ絶望して亡霊から逃げ続ける伽椰は、カレー…

帰らざる荒野(佐々木譲)

明治のはじめの北海道開拓史には関心があります。その時代の北海道は、まるでアメリカ西部劇の世界なんですよね。 江戸時代に松前藩と幕府が抑えていたのは、沿岸部だけ。北海道内陸部の本格的な開拓は、「賊藩」の旧藩士をはじめとする政策的移民が開始され…

御三家の反逆(南原幹雄)

御三家とは、尾張、紀州、水戸のこと。徳川幕藩体制が確立された後、御三家の存在は微妙だったようです。 徳川本家に跡継ぎが絶えた場合、将軍を出すための存在とはいえ、時代が下れば血の繋がりも薄くなっていきますしね。この本は、三代将軍家光の時代に早…

シティ・オブ・タイニー・ライツ(パトリック・ニート)

なぜか「移民の物語」には心を惹かれます。「無数の小さな光からなる街」とは、移民が見たロンドンであり、彼ら自身「小さな光」のように輝いているとの想いなのでしょう。 汚い口調でドタバタ劇のように書かれてますが、内容は重い。ロンドンの裏街で探偵を…

わたしを離さないで(カズオ・イシグロ)

キャシーは、「提供者」を世話する、優秀な「介護人」。彼女が生まれ育ったのは、「ヘールシャム」という特別な施設。そこで友人だった、ルースやトミーも、彼女が介護しました。キャシーは、あと数ヶ月で「介護人」を辞めて、自ら「提供者」になる決意をし…

終末のフール(伊坂幸太郎)

「8年後の小惑星衝突で地球は滅亡」と発表されてから5年後。一旦は乱れた秩序も既に回復し、世の中は小康状態を保つ中、普通の人たちは「あと3年」をどう生きるのでしょうか。 同じマンションに住む人たちの、8つのケースが語られます。 ・息子を自殺に…

ファンタジスタ(星野智幸)

中編3作が収められています。 『砂の惑星』で描かれるのは、かつてドミニカに棄民された男と、森に住むホームレスとなって舞う一人芝居とが、言葉を放棄して集団自殺に向かおうとする小学生たちに繋がっていく様子。 表題作『ファンタジスタ』は、首相公選…

歌の翼に(トマス・M・ディッシュ)

高校生の時に出会い何度も読み直した、とってもとっても好きな本でした。「サンリオSF文庫」の廃止によって、2度と手に入らないのですが・・。 「飛翔」とは、精神を開放し、世界を飛び回るフェアリーになること。肉体を残して「飛翔」するためには、「歌…

ミラード(ラフィク・シャミ)

ラフィク・シャミさんは、シリア生まれでドイツに亡命した作家。彼が育ったマルーラ村はシリアの奥地にあり、峻厳な山に囲まれて周囲から孤絶しているため、イスラム教とアラビア語の世界の中で、例外的にキリスト教徒が多く、アラム語が使われているそうで…

3001年終局への旅(アーサー・C・クラーク)

『2001年宇宙の旅』シリーズの最終作品にあたります。 「あの映画」は有名ですよね。荘厳な音楽や、投げ上げた骨器が宇宙ステーションに変わる映像。人類に文明の夜明けをもたらしたモノリスの存在。木星付近に発見されたモノリスを探索に行くディスカバ…

沖で待つ(絲山秋子)

絲山さんが芥川賞を取ったときには「女性総合職の小説」として話題になりましたが、「こういうケースもある」ってことでしょうか。 「仕事のことだったら、そいつのために何だってしてやる」。そんな信頼と友情を寄せていた同期男性の突然の死。お互いにどち…

No.1レディーズ探偵社、本日開業(アレグザンダー・マコール・スミス)

プレシャス・ラモツエ。34歳。ボツワナでただひとりの女探偵。かなり太め、バツイチ。ひとよんで「サバンナのミス・マープル」。この言葉に引き付けられました。いったい、どんな探偵小説なんだろう。読んでみたら、アフリカならではの素朴な事件がいっぱ…

そろそろくる(中島たい子)

『漢方小説』の作者による、2冊目の小説です。この本のテーマも、女性の身体と心。主人公のキャラも、作品の雰囲気も、とっても似ています。 いったい何が「そろそろ来る」のでしょうか。それは女性なら避けて通れないもの。「生理」なんですね。彼女のPM…

グリム兄弟(高橋健二)

図書館でパラパラめくってみたら、途中に「童話」も載っていて軽い本かと思って読み始めたら、本格的な評伝でした。「童話」部分は、初版から決定稿まで、どう表現が変わっていったのかを、例をあげて検証していただけだったのです。でも、「赤ずきん」「ヘ…