りぼんの読書ノート

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オールウェイズ・カミングホーム(ル=グィン)

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ゲド戦記」の作者の本ですが、ティストは全く違っています。この本は、2万年後のカリフォルニアのヴァレーに住む人々の生活を、まるで、「人類学のテキスト」のような形で紹介しているのです。

それは、彼女の言うところの「未来の考古学」。そこにあるのは、一貫したストーリーではありません。色々な部族や個人の、詩、物語、伝記などの断片を採集し、衣食住、祭礼、音楽、文字などが解説されていくことによって、ひとつの独特な世界が、浮かび上がってきます。

現代の物質文明の対極にある、悠久の時が流れる世界。核戦争があったのか、地殻変動があったのか・・。人類の末裔たちは、穏やかで慎ましい土着文化を営んでいます。ネイティブ・アメリカンの世界に近いのかもしれません。

でも、彼らを見守っているのは、完全自動化された情報機械。その存在は、自然環境と同じように公開されているために、情報の落差はなくなり、そこから利益を得る者もいません。情報の均質化は暴力や利潤すら包囲して、無力化するのです。(そうではない男系社会も、一部には存在しているのですが・・)

幕間に登場して、実際にヴァレーに足を踏み入れながら習慣の違いにとまどい苛立つパンドラという謎の女性がいます。彼女が、学者めいた語り口で「未来の考古学」を綴る著者と同一人物だということに、最後で気づかされます。

同時に、著者の狙いもわかったような気がします。タイトルの「オールウェイズ・カミングホーム」とは、「われわれはどこへ行くのか?」という問いへの回答なんですね。

2006/7