りぼんの読書ノート

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バルトの楽園(古田求)

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日本で最初にベートーベンの「第九交響曲」が演奏されたのは、徳島県の、今は鳴門市に編入された坂東村という所だそうです。ここには、かつて、捕虜になったドイツ兵の収容所がありました。

第一次世界大戦で日本は、中国の青島にいたドイツ軍を破って数千人ものドイツ兵を捕虜とし、日本国内に収容したのですが、もともと投降の思想がなかったこともあり、戦った相手に対して寛大にふるまうことは難しかったのでしょう。

各地でドイツ人捕虜は冷遇され、虐待事件すら頻発するなか、明治維新で賊軍扱いされた会津出身の大佐が所長を勤めていた坂東収容所だけは、別世界の赴きがあったそうです。身をもってドイツ人たちの尊厳を守り通した大佐のもとで、近隣の日本人との交流も行われ、国境や人種を越えた友情も生まれ、それは「歓喜の歌」となって結実したのでした。

西洋の楽器も満足になく、女声歌手もいないところで、バイオリンを手作りし、ファゴットはオルガンに置き換え、女声パートを男性がこなすなど、出来栄えはどうだったのでしょう。もちろん、そういう問題ではありませんけどね。

現在公開されている映画の、脚本家自身によるノベライズです。ドイツ敗戦が決まって釈放された捕虜たちの中には、自分の意思で日本に残った人も多かったとのこと。その後、三国同盟から第二次世界大戦へと至る激動の時期に、彼らの日本での人生がどうなったのか、気になりますが・・。

2006/7