りぼんの読書ノート

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秀吉の枷(加藤廣)

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信長の棺』で颯爽とデビューした70歳の新人、加藤さんの第二作。

秀吉を古代において天皇家に仕えていた丹波の賤民の末裔である尊王思想の持ち主として描き、光秀のクーデターを事前に知りながら、皇位を簒奪しようとしていた信長をついに本能寺にて横死せしめた・・との、前作『信長の棺』での新解釈は、読み応えがありました。

前作では「信長公記」の著者であり、秀吉にも仕えた太田牛一本能寺の変の謎を追究させていますが、本書は秀吉側から見たストーリー。秀吉が大恩ある信長に対して殺意を抱いていく過程が克明に描かれ、しかしながら「本能寺の変の謎」を家康に知られてしまったことによって、絶対的独裁者として君臨することを諦めざるを得なかったという前半には迫力があります。

「天下様」となった秀吉が茶々に振り回された理由に迫る後半は少々説明不足かな。茶々が突然、あれほど嫌っていた秀吉に靡いた事情や秀次処刑の真相などは歴史の行間を読んだ見事な新解釈なのですが、秀頼が自分の子でないことを知りながらあそこまで執着した理由となると、ちょっとわかりにくい。

でも、古今の文豪によって書きつくされた感のある戦国武将ストーリーでも、まだまだ新しい解釈が可能ということを示したというだけでも、加藤さん、お若いです。^^

2006/8