りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

読書

コンビニ人間(村田沙耶香)

2016年上半期の芥川賞受賞作であり、授賞後も生活リズムを整えるためにコンビニバイトを続けているという異色の著者の作品を、ようやく読むことができました。 主人公は著者自身を彷彿とさせる36歳未婚女性の恵子。幼いころから普通の感情を持ち合わせ…

書店ガール7(碧野圭)

2007年に出版された『ブックストア・ウォーズ』以来、『書店ガール』として書き継がれてきたシリーズが、7巻にしてついに完結してしまいます。本書では最終巻にふさわしく、4人の主人公たちの「現状」が綴られます。 書店から離れて教師となった愛奈は…

烙印(パトリシア・コーンウェル)

「検屍官シリーズ」第24作ですが、最近のこの作品は前置きばかり長くて、いるになっても事件が始まらないという印象があります。夫ベントンや姪ルーシーとのすれ違い、粗暴なマリーノや不仲な妹ドロシーや要領の悪い検屍局員への不満などの間に、事件の兆…

天冥の標10.青葉よ豊かなれ Part 1(小川一水)

2009年から10年かけて書き継がれてきた全10巻のシリーズが、最終巻に突入しました。ここまでで、800年に渡って牧歌的な生活を営んできた植民星メニーメニーシープは、太陽系に進出した人類のわずかな生き残りにすぎないこと、しかも植民星はすで…

龍華記(澤田瞳子)

平家の繁栄が揺らぎ始めた平安末期。藤原の姓を持つ出自でありながら南都興福寺の悪僧となっている範長を視点人物として、「仏心」の本質に迫った力作です。 平家が都から送り込んできた検非違使を阻止しようと、仲間の僧兵たちと般若坂へ向かった範長は、小…

ドッグマザー(古川日出男)

明治天皇の記憶を持っていたという養父の遺骨を持って、老犬とともに京都にたどり着いた青年は、伏見で出会った女性の導きで地下世界へと入っていきます。やがて彼は、前世を売る謎めいた教団の女院主と関係し、彼女の後継者となるべき姉弟たちと出会うこと…

ユニコーン(原田マハ)

15世紀フランドル織物の大傑作である「貴婦人と一角獣のタピスリ」は、どのような経緯でカルチェ・ラタンのクリュニー美術館に所蔵されるに至ったのでしょうか。著者は、地方の古城で朽ち果てようとしていたタピスリが、ジョルジュ・サンドを介して、初代…

文字渦(円城塔)

文字の霊が現実世界に及ぼす災いを寓話的に描いた中島敦の短編『文字禍』から1文字変えた本書には、文字の誕生から、文字が生命を有し、さらには文字が宇宙創生するなど、とことん文字にこだわった12編の短篇が収録されています。 刻々と変化する始皇帝の…

ミッテランの帽子(アントワーヌ・ローラン)

フランス人にとってミッテラン大統領とは、どのような評価が下される人物なのでしょう。個々の政策はともかくも、オルセーの開館、ルーブルのピラミッド設置、新凱旋門建設などのパリ大改造が行われ、EU統合が進展した1980年代は、フランスが輝いてい…

テンプル騎士団(佐藤賢一)

日本文壇における西欧歴史小説の第一人者が、テンプル騎士団の成立過程から悲劇的結末までを描き出しました。「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」や『フーコーの振り子』や『ダ・ヴィンチ・コード』に登場したり、「ジェダイの騎士」のモデルと言われたり、…

悪玉伝(朝井まかて)

江戸時代最大の疑獄事件といえば、歌舞伎の題材にもなっている「辰巳屋事件」。この事件のことは、松井今朝子さんも題材にしていますね。そちらでは、大阪の炭問屋の跡目相続をめぐる近親間の対立が、奉行所を巻き込んで死罪4人を出すほどの大事件となった…

チンギス紀 3(北方謙三)

父イェスゲイの死で四散したキャト氏族を糾合したテムジンは、2000騎の精鋭を旗下に収めます。ついにモンゴル族の覇権を賭けたタイチウト軍との決戦に勝利するかと見えたその時に、意外なことが起こります。黒い旗を掲げた50騎の騎馬隊がテムジン軍を…

秘録島原の乱(加藤廣)

2018年4月に87歳で亡くなられた著者の遺作です。本書が「秘録」とされるのは、天草四郎が豊臣秀頼が脱出先の九州で生した子であり、島原の乱の目的が幕府転覆であったという壮大な構想に基づく作品であるからです。どちらも著者オリジナルの発想では…

ソロモンの歌(トニ・モリスン)

ノーベル文学賞作家トニ・モリスンの第三長編は、はじめて男性を主人公に据えています。成長しても母親の父を飲んでいたと噂されてミルクマンと呼ばれるようになった、黒人男性の成長物語。 物語はミルクマンの前の世代から始まります。医者の娘でメイコンを…

郝景芳短篇集(ハオ・ジンファン)

ケン・リュウ編の現代中国SFアンソロジー『折りたたみ北京』の表題作の著者による短編集です。1984年に天津で生まれたまだ若い著者は、山村の子供たちに教育機会を提供する学院を設立するなど、世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーズに…

スタートボタンを押してください(ジョン・ジョゼフ・アダムズ/編)

「ビデオゲーム」をテーマとして書かれた作品を編んだ、楽しいSFアンソロジーです。「この新しいメディアのおかげで、受動的な参加者ではなく、本当の主人公になれた」という、『ゲームウォーズ 』の著者アーネスト・クラインによる序文の言葉が、すべてを…

国境の向こう側(グレアム・グリーン)

日本オリジナルの短編集ですが、本書と『二十一の短篇』と『見えない日本の紳士たち』を合わせて、全短編が「ハヤカワEPI文庫」に収録されたことになるようです。巨匠のウィットを思う存分楽しめます。 「最後の言葉」 未来のディストピアを支配する将軍…

サロメの乳母の話(塩野七生)

歴史上の有名人物の身近にいた人は、その人物をどのように見ていたのでしょう。かなり楽しんで書かれた作品のようですが、著者による人物評価のほうが、意外と実像に近いのかもしれません。 「貞女の言い分」 夫オデゥッセウスの帰還を20年待ち続けた妻ペ…

チンギス紀 2(北方謙三)

ついに15歳となって父祖の地に戻ったテムジンは、父イェスゲイの死で四散したキャト氏族を呼び戻すことを決意。帰還を知らせるために弟カサル、従者ボオルチュ、槍の達人ジェルメを率いて、たった4騎で草原を駆け巡りますが、モンゴル族の盟主の座を狙う…

紅霞後宮物語 第7幕(雪村花菜)

ついに小玉の軍人皇后としての本格的な活躍が始まりました。鍛えられた軍を有する寛と、騎馬戦を得意とする康の2カ国を相手にして、小玉は勝機を伺います。しかし開戦を前にやってきた康の密使は、夫である皇帝・文林を倒して女帝となることを薦めるのです。…

書店主フィクリーのものがたり(ガブリエル・ゼヴィン)

ともに本好きな若い夫婦が開いた、島に1軒だけの小さな本屋。しかし妻の事故死によってひとりになった夫フィクリーは偏屈になり、大切にしていた稀覯本も盗まれて打ちひしがれてしまいます。そんなある日、書店に捨てられていた小さな子供マヤを手放せなく…

多々良島ふたたび - ウルトラ怪獣アンソロジー(山本弘ほか)

「ウルトラシリーズ」世代の7人の作家による、オマージュ作品集です。原典を知らなくても、シリーズを貫く世界観さえわかっていれば楽しめるはずです。 「多々良島ふたたび(山本弘)」 レッドキングやガラモンが登場した「怪獣無法地帯」の多々良島に、測…

トム・ハザードの止まらない時間(マット・ヘイグ)

「遅老症」なる超長生きの遺伝子を有する人々が、ごく少数存在するという設定のSFです。主人公のトムもそのひとりで、4世紀以上の年月を生きているのですが、長生きと幸福とは必ずしも両立するものではないようです。 成長の遅い息子を生んだことで魔女狩…

京都伏見のあやかし甘味帖 3(柏てん)

一瞬にして仕事も恋も失って、京都で人生休憩中の小薄れんげ、29歳。甘味マニアの草食大学生・虎太郎が営む古民家に民泊し、なぜか伏見稲荷の神徒という子狐クロに懐かれてしまいます。不思議な事件に遭遇して滞在延長中ですが、いつまでも中途半端な生活…

変わったタイプ(トム・ハンクス)

本書の著者は、あのトム・ハンクスです。アメリカの国民的映画俳優が書いた短編集というので、どうしても先入観を抱いてしまいがちですが、そのような心配は不要です。どの作品においてもプロットがしっかりしているのは、「映画で役作りをする場合に背景の…

チンギス紀 1(北方謙三)

「大水滸伝シリーズ」完結から2年、満を持して新シリーズが始まりました。南宋・金・梁山泊の三つ巴の戦いから身を引かされて北方へと去った胡土児は、どのようにモンゴル族の英雄と関わっていったのでしょう。「岳飛伝」の最後が1150年ころで、チンギ…

紅霞後宮物語 第0幕3(雪村花菜)

稀代の天才と呼ばれた女性軍人でありながら30代にして突如皇后となり、帝国に中興期をもたらして後に神格化された関小玉の活躍は、本編で綴られています。本書は彼女の伝説の始まりを記した「第0幕シリーズ」の第3巻。 前巻で最悪の部下として配属された…

貧乏だけど贅沢(沢木耕太郎)

『深夜特急』の著者が、各界有名人と「旅における贅沢な時間」について語り合った対談集です。いきなり空港へ行ってから目的地を選ぶという井上陽水。船旅をこよなく愛した阿川弘之。インドのブッダガヤに留まり続ける此経啓助。死に場所を見つけたいと語る…

ピアノ・レッスン(アリス・マンロー)

短編の名手としてノーベル文学賞を受賞した著者が、1968年に出版したデビュー短編集です。平凡な人生の中で光り輝く一瞬を切り取る「作家の視点」は既に完成されています。著者の自伝的エピソードが多く含まれている点も興味深いもの。50年前の作品が…

ヒッキーヒッキーシェイク(津原泰水)

タイトルにある「ヒッキー」とは「引きこもり」のこと。ヒキコモリ支援センター代表を名乗る、いかにも胡散臭い竺原丈吉こと「JJ」が、ヒキコモリの天才たちを集めて壮大なプロジェクトを開始するのです。 JJを介して集められたメンバーは、天才的美少女…