りぼんの読書ノート

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文字渦(円城塔)

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文字の霊が現実世界に及ぼす災いを寓話的に描いた中島敦の短編『文字禍』から1文字変えた本書には、文字の誕生から、文字が生命を有し、さらには文字が宇宙創生するなど、とことん文字にこだわった12編の短篇が収録されています。

刻々と変化する始皇帝の本質をとらえるために数多くの文字を発明した天才陶工。太陽系の彼方に浮かぶ文字の断片。『源氏物語』の紫上が亡くなる章を筆記する際に涙を流すAI筆記マシン。全ての化石は文字の化石であったという新発見。中国奥地に伝わる文字どうしを闘わせる遊戯。図形のように空に浮かび上がる文字。本文の内容を超えて行間を意訳しまくるルビ。後世に伝わらなかった膨大な文字を集積した遣唐使。名前の「予」の文字が逆立ちしたにすぎなかったという、横溝正史の名作ミステリ。

読んでいて意味不明の作品も多いのですが、著者自身「自分でも何を書いているかわからないことがよくあります」と述べているくらいなので、奇抜な発想と深遠そうな雰囲気を楽しめば良いのでしょう。本書の成立には『雨月物語 』の現代語訳を行った際に「江戸期の和本が読めないことに衝撃を受けた」ことも関係しているのかもしれません。

それにしても、ユニコードを超越した複雑な文字を大量に用いた本書を、よく印刷できたものだと感心してしまいます。たぶん画面では読めない文字ばかりでしょう。

2019/6