りぼんの読書ノート

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龍華記(澤田瞳子)

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平家の繁栄が揺らぎ始めた平安末期。藤原の姓を持つ出自でありながら南都興福寺の悪僧となっている範長を視点人物として、「仏心」の本質に迫った力作です。

平家が都から送り込んできた検非違使を阻止しようと、仲間の僧兵たちと般若坂へ向かった範長は、小競り合いが乱戦となってしまった中で検非違使を殺めてしまいます。しかしその代償は、平重衡が率いる大軍による南都炎上だったのです。興福寺東大寺などの有力寺院の大半が焼け落ち、多数の僧侶や住民が焼死するという地獄絵図が繰り広げられたのです。

やがて平清盛の病死が南都焼討の仏罰と噂される中、平宗盛は南都復興に乗り出すのですが、やがて平家も滅び去ってしまいます。源氏に捉えられていた平重衡は、焼討を憎む宗徒ちの要求で南都へと引き渡されるのですが・・。

本書は、焼討を招いたことを悔いた範長が、いかにして憎悪と復讐の連鎖を断ち切るに至ったかをテーマとする物語です。彼ひとりでは、平重衡も彼の養女も救えなかったものの、いくつかの救いを生み出すことになりました。本書はまた、阿修羅像をはじめとする八部衆塑像が救われた経緯や、明日香の山田寺仏頭が興福寺に伝わった経緯にも触れています。3月に興福寺を再訪してきたばかりでしたので、強く印象に残りました。

2019/6