りぼんの読書ノート

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郝景芳短篇集(ハオ・ジンファン)

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ケン・リュウ編の現代中国SFアンソロジー折りたたみ北京』の表題作の著者による短編集です。1984年に天津で生まれたまだ若い著者は、山村の子供たちに教育機会を提供する学院を設立するなど、世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーズにも選ばれているとのこと。

 

「北京 折りたたみの都市」
アンソロジーにも含まれていた作品なので再読です。AIや機械が労働者を代替する時代に、余剰労働力に対応するための回答は、決して明るくはありません。しかし、エリート層と昼夜逆転した世界で産廃処理に従事する者たちにも、それなりの希望はあるのです。大都市が裏返されていく描写が、壮大かつ詩的な作品です。

 

「弦の調べ」
謎の宇宙人に支配された地球。軍や抵抗者はピンポイントで処分するものの、服従者には危害を加えず、芸術を尊重する宇宙人に対して、抵抗ののろしをあげたのは老音楽家でした。弦の共鳴で宇宙エレベーターを振動させ、宇宙人が拠点としている月を破壊しようとするのですが・・。

 

「繁華を慕って」
老音楽家に協力する夫の視点で綴られる「弦の調べ」に対して、妻の視点から語られる物語。優れた音楽家として宇宙人からのシャングリラ招待を断った妻は、宇宙人の意味に気づくのですが・・。離れて暮らしている夫婦の心象が、美しいハーモニーを奏でているようです。

 

「生死の間」
「生と死とはエネルギー空間と時間空間を指す」との発想から生まれた作品とのこと。黄泉の国で死者に茶をふるまって生前の記憶を失わせるという、中国の孟母伝説が組み合わされています。

 

「山奥の療養院」
厳しい競争社会の勝者である海外留学生であっても、トップを走り続けるのは難しいもの。研究者が抱く恐怖を描いた作品には、中国社会の現実ふが反映されています。

 

「孤独な病室」
他人からの賞賛と肯定なしに生きられないネット社会の居住者が行き着く先は、どのようなものなのでしょう。

 

「先延ばし症候群」
「締め切り」というのは、作家にとって世界共通の悩みなのですね。どんなにSF的な世界においても、締め切りの恐怖からは逃れられないようです。

 

2019/5