りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

読書

パラダイス(トニ・モリスン)

1993年にノーベル文学賞を受賞した著者が、授賞第1作として書き上げた本書は、衝撃的に始まります。銃で武装した男たちが町外れにある修道院を襲撃して、そこで暮らしている女たちを皆殺しにしようとするのです。 やがて物語は時間を遡って、事件へと至…

抱く女(桐野夏生)

時代は1972年。主人公の直子は20歳の大学生というから、1951年生まれの著者と同じ世代です。直子が感じた閉塞感や憤りは、著者自身の思いでもあったはずです。 授業にも身は入らず、70年安保で敗北した大学闘争も終わりが見え、「抱かれる女から…

通い猫アルフィーと海辺の町(レイチェル・ウェルズ)

かつて飼い主の老婆を失って野良猫の悲哀を味わったアルフィーは、数件の家庭を掛け持ちする「通い猫」となり、通い先の家族の平安を守っています。前巻では、仔猫ジョージの親代わりとなり、近所の雌猫タイガーとも想いを確かめ合ったりして、人間たちとも…

闇の聖天使(篠田真由美)

ヴェネチアに生きるヴァンパイアを主人公とするゴチック・ロマンですが、あまりにも似合いすぎる両者を結びつけた作品は、あまり多くありません。萩尾望都の『ポーの一族』の舞台は郊外でしたし、「ヴァンパイア・クロニクルズ」で有名なアン・ライスの番外…

潮鳴り(葉室麟)

『蜩ノ記』に続く、「豊後羽根藩シリーズ」の第2作です。かつては藩の俊英と謳われながら自尊心から役目をしくじって失職し、「襤褸蔵」と呼ばれる無頼暮らしをしている伊吹櫂蔵が、再起に至る物語。 再起のきっかけは、家督を譲った異母弟が切腹をして果て…

わたしは英国王に給仕した(ボフミル・フラバル)

20世紀のチェコを代表する作家のひとりである著者が、1971年に書き上げながら、長らく国内での出版を禁じられていた作品です。百万長者を夢見る給仕人が波瀾万丈の半生の末に夢を叶えるに至る物語ですが、その中核をなしている部分がナチスによるチェ…

お茶壺道中(梶よう子)

「ずいずいずっころばし」のわらべ歌が、将軍家の権威を笠に着た「お茶壺道中」の横暴を風刺したものであることは、松本清張氏の短編『蓆』で知りました。では徳川家光の時代に始められ、235年ものあいだ毎年休むことなく続けられたお茶壺道中は、どのよ…

母親ウエスタン(原田ひ香)

悪漢たちの横暴から家族を守った流れ者が、少年の呼び声を振り切って去っていくのが、ウエスタン映画の傑作「シェーン」のラストシーンでした。本書の主人公である広美は、母のいない問題家庭を転々と渡り歩き、家庭が軌道に乗ると人知れず去っていく「現代…

トリック(エマヌエル・ベルクマン)

20世紀初頭のプラハで貧しいラビの家に生まれ。サーカス団に飛び込んて奇術師となったモシェ。21世紀初頭のロサンジェルスで、両親の離婚に苦しむ少年マックス。「永遠の愛の魔法」を得意にしたという モシェがロスの高齢者施設で生きていることを知った…

むすびつき(畠中恵)

「しゃばけシリーズ」も第17弾になりました。もっと早く完結するかと思っていたのですが、一時の中だるみ状態も脱していますし、ここまできたらもうやめられませんね。本書では「生まれ変わり」をテーマとする作品が並んでいます。 「昔会った人」 付喪神…

水底の女(レイモンド・チャンドラー)

村上春樹さんの新訳による「フィリップ・マーロウ」作品の7作目。これで全長編が翻訳されたことになります。 男と駆け落ちしたらしい奔放な妻の安否を確認して欲しいという、香水会社の経営者からの依頼を受けたマーロウ。妻の足取りを追って、人里離れた湖…

洪水の年(マーガレット・アトウッド)

カナダ文学界の巨匠による世界終末譚「マッドアダムの物語3作」の第2作です。第1作の『オリクスとクレイク 』以来8年もたって、出版社を変えて、ようやく翻訳書が出版されました。 本書の主人公は、行き過ぎた人工世界に異議を唱えるエコロジカル宗教団…

天冥の標10.青葉よ豊かなれ Part 3(小川一水)

10年に渡って書き継がれてきた、全10巻、16冊の大シリーズがついに完結しました。全宇宙的な対立軸の末端で翻弄され、絶滅の一歩手前まで追い込まれてしまった人類は、対決の最前線で宇宙種族たちに何をもたらすことができるのでしょう。 6千万年もの…

天冥の標10.青葉よ豊かなれ Part 2(小川一水)

全宇宙を覆いつくして静的安定をもたらそうとする「オムニフロラ=ミスチフ」の対抗勢力が結集しようとしています。しかし互いに異なる勢力間の思惑は一致していません。カルミアンの総女王オンネキッツが企てる人工的な超新星爆発戦略を、樹木族を率いるア…

シアター!2(有川浩)

「2年間で劇団の収益から300万を返せ。できない場合は劇団を潰せ」という条件で再開された「シアターフラッグ」の活動は、鉄血宰相・春川司の監視の下で軌道に乗りかけていました。趣味的な劇団運営にサラリーマン的な経営管理視点を持ち込んだことが、…

シアター!(有川浩)

300万円の負債を抱えて解散の危機に瀕した小劇団「シアターフラッグ」を救ったのは、主宰・春川巧の兄・春川司でした。しかし司の本心は、30歳になっても生活の目途がつかない弟に演劇をあきらめさせることだったのです。「2年間で劇団の収益から30…

その姿の消し方(堀江敏幸)

戦乱の20世紀前半を生きたフランスの無名詩人の足跡をたどる「私」の物語は、書き手と読み手の関係性を問いただしているようです。 「私」がフランス留学時代に古物市で手に入れた、1938年の消印がある絵葉書には、謎めいた詩が綴られていました。やが…

悪魔の孤独と水銀糖の少女(紅玉いづき)

自ら滅びを選んだ死霊術師たちの忘れ形見である少女シュガーリアが向かうのは、無数の罪をその身に刻み悪魔を背負う青年ヨクサルが住むという黒い海。 愛しか知らない少女と、愛とは無縁な孤独な青年が、「かつての黄金の島であり、今は悪魔の島であり、未来…

国会議員基礎テスト(黒野伸一)

国会議員の暴言、失言、不倫、不正など、適性を疑いたくなる事件が後を絶ちません。三権のうちで裁判官も役人も試験を通っているのに、国会議員には試験がないのはおかしくないかとの視点で書かれた作品です。 典型的なボンボン2世議員の黒部優太郎と、彼の…

プレイバック(レイモンド・チャンドラー)

村上春樹さんによる「フィリップ・マーロウ・シリーズ」新訳の6作めにあたります。生島治郎氏の名訳「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」の決めセリフで有名な作品ですが、村上さんはどう訳したのでしょうか。 物語は、夜…

風と行く者(上橋菜穂子)

「守り人シリーズ」の外伝にあたる本書は、本編終了後のバルサの物語。タンダとともに国境付近の草市を訪れたバルサは、少数民族サダン・タラムの旅芸人一座「風の楽人」一行と20年ぶりに再会。一座の若い女頭目のエオナの危機を救ったことで、旅の護衛を…

パーマネント神喜劇(万城目学)

神様の世界でもノルマや人事があって大変なようです。最初に配属された縁結び専門の末社で千年も務め続けていた下級神に、昇格の話が持ち上がります。 密着取材に来たライターが覆面調査員だったり、後任のフリをした神宝デザイナーに振り回されたり、超VI…

マルドゥック・アノニマス 4(冲方丁)

ついにバロットがウフコックの救出に現れます。このシリーズではずっと、階級格差の激しい未来都市で貧民層も富裕層も「均一化=イコライズ」して支配下に置こうとする新興勢力「クインテット」のボス、ハンターの覇権が現実化する過程が中心に描かれていま…

タンデム(パトリス・ルコント)

「タンゴ」や「髪結いの亭主」などのペーソス溢れる作品で知られる映画監督が、同名の自作映画を自らノベライズした著作です。 初老のラジオ司会者モルテスと、若くて無邪気な助手のリヴドは、フランス各地を回ってクイズ番組の生放送を続けています。身勝手…

雲上雲下(朝井まかて)

不思議な構成の作品でした。民話を題材にしたファンタジーが、思いもよらなかった地点に着地するのです。もっとも著者自身が、「語り手が何者なのか分からずに書き始めた中で、テーマが立ち上がってきた」と述べているくらいなので、読者の想像を超える展開…

三国志 外伝(宮城谷昌光)

大作『三国志』を著した著者は、「歴史の本道から遠ざかっていった者たちを書ききれなかったことに満足できなかった」と述べています。「宮城谷三国志」は未読ですが、「吉川三国志」や「北方三国志」は読んでいるので、聞き覚えがある人物たちが次々に登場…

数学者たちの楽園(サイモン・シン)

本書の副題は「『ザ・シンプソンズ』を作った天才たち」。アメリカアニメ「ザ・シンプソンズ」と言われても、可愛げのないキャラクターしか思い浮かばないのですが、実際にこのアニメ制作には多くの「数学博士」たちが携わっているとのこと。アニメに隠され…

ディス・イズ・ザ・デイ(津村記久子)

「その日」とは、サッカーJ2リーグの最終日。昇格や降格が決まる運命の日を迎えた22チームのサポーター22人の、それぞれの思いが綴られた作品です。全てが架空のチームなのですが、それぞれのチーム事情や選手経歴は、実在のそれを彷彿とさせる設定で…

生まれ変わり(ケン・リュウ)

現代中国SFの第一人者となった著者の、日本オリジナル短編集の第3段です。前2作の『紙の動物園』や『母の記憶に』と同様に、アジア的な情感と最先端テクノロジーが共存する作品が20編収録されています。全部は無理なので、印象に残った作品だけ書き記…

破蕾(冲方丁)

与力の妻として旗本の屋敷を訪れたお咲を待ち受けていたのは、ある高貴な女性に言い渡された「市中引廻し」を身代わりで受けるという恐ろしい話でした。当初は羞恥に苛まれるお咲でしたが、徐々に精神の箍が外れていくのです。 一方で、お咲が身代わりとなっ…