2016-01-01から1年間の記事一覧
『老いの入舞い』に続く、「麹町常楽庵月並の記」のシリーズ第2作です。元大奥に勤めていた庵主志乃と、新米同心の仁八郎の周囲で起きる事件は、次第に血生臭いものになっていきます。 「宝の持ち腐れ」 蔵から消えた高価な掛物の謎を、かつて大奥で「失せ…
大傑作の『犬の力』で描かれた、メキシコの麻薬王アダン・バレーラと、DEA捜査官アート・ケラーの30年に渡る闘争は、終わってはいませんでした。待望の続編の誕生です。 アメリカからメキシコの刑務所に移されたアダンは、特別待遇のもとで麻薬組織に指…
第1巻と第2巻を一気読みしたかったのですが、図書館に頼っているとなかなかそうもいきません。第2巻がまわってくるのは来月以降になりそうです。 フランス革命期を舞台にした、伝奇ロマンの第一部の舞台はロワール川の河口に栄えた貿易都市ナント。パリか…
大正末期の浅草で、男子禁制の少女ギャング団に女装して入団した少年・仙太郎の目的は、行方不明になった姉のハルを探すこと。地方の名家へと嫁ぐ前日に自殺を装い、「浅草十二階」こと「凌雲閣」とだけヒントを残して姿を消した姉は、やはり浅草にいるので…
タイトルを見る限りでは、「本国スペインよりも苛烈であったという南米ペルーの異端審問の実態を考証するノンフィクション」と思えてしまいます。実際そうなのですが、本書を貫いているのはユーモア精神なのです。 リマ生まれの作家・歴史学者である著者が、…
時は大正、ロマンの時代。しかし「青鞜運動」などは帝都だけのできごと。地方の女性は、まだまだ古い因習に閉じ込められているのです。女性であることを隠して新聞社で働く新米記者の英田紺と、どんな箱も開けることができるという「箱娘」こと回向院うらら…
大阪に転勤してきて、関西の阪神ファンの生態にも少々詳しくなりました。あるファンは「シーズン開幕前が一番楽しい」と言います。チームと個人の成績について希望的に観測できるのが開幕前であり、開幕後は夢の実現確度が下がっていくだけだというのです。…
「猫の世話をするだけの簡単なお仕事」という求人募集を見て、喫茶虹猫のバイトに応募した獣医大学1年生の主人公・翔の思惑はいきなり狂わされてしまいます。「ここは猫カフェではなく、猫の引き取り手を探す紹介所」という美貌の引きこもり店長・サヨリさ…
「空間軸と時間軸を交差させる」という物理法則を導入することによって、新しい世界を生み出してしまった「直交宇宙シリーズ」の第2作です。本書では、第1作の『クロックワーク・ロケット』で、宇宙的規模での天体消滅から母星を救うために超巨大宇宙船「…
「ブラインド・マッサージ」とは、盲人によるマッサージのこと。南京のマッサージ店で働く盲目のマッサージ師たちの群像劇は、中国でベストセラーとなり、映画化もされました。 南京の「沙宗琪マッサージセンター」は、上海のマッサージ店に出稼ぎにきて苦難…
ウクライナ生まれのロシア人にとって、革命後の内戦期は生きることが難しい時代だったようです。首都キエフの支配者は、ウクライナ人民共和国、赤軍、ウクライナ国、ドイツ帝国、白軍と次々と変わり、当時20代の青年であった著者も、何度も異なる軍隊に勤…
孤独のさまざまな姿を描きながら、孤独を介しての繋がりという裏返しの希望を期待させてくれた『いちばんここに似合う人 』に続く作品は、「インタビュー集」というノンフィクションでした。映画監督でもある著者は、行き詰った脚本執筆から逃れるために、フ…
「けさくしゃ」とは「戯作者」のこと。文化文政から天保の時代に、『偽紫田舎源氏』などのヒット作を生み出した柳亭種彦を主人公にした「お江戸人情ミステリ」。主人公のキャラが「病弱なハンサム」というので『しゃばけ』と似た雰囲気もあるのですが、こち…
3人称で綴られた「妻の超然」、1人称で綴られた「下戸の超然」、2人称で綴られた「作家の超然」という、3作の中編からなる作品です。「超然」とは無関心な態度のことなのか。部外者であることなのか。それとも強靭な精神力のたまものなのか。なかなか奥…
著者が実際の体験をもとにして著した「相談小説」です。小学校の近くにあった書店に立ち寄った際、そこが近所の児童からの相談コーナーを開設していたことを思い出した著者が、子ども時代に謎だった不思議な親の言動について相談を試みるという物語。歳を重…
ケン・リュウさんがアジア的感覚で紡ぎ出す「シルクパンクSF」は面白いのですが、どうしても、下敷きである『項羽と劉邦』と比較してしまいます。オリジナルの物語を知らない人の方が楽しめるかもしれません。「その後」の物語となる「第3部」に期待しま…
ノーベル賞作家が、国際的なベストセラーとなった『わたしの名は紅』の前に著した小説が、ついに邦訳されました。四半世紀も前の1990年の作品ですが、未だに色褪せてはいません。 物語は、イスタンブールの青年弁護士であるガーリップが、トルコ語で「夢…
シェイクスピアの正体については、「ストラットフォード出身のシャクスピア」ではないと考える「別人説」が複数あって、それぞれ「論拠」を展開しているものの決め手がないというのが実情のようです。そんな中で、大文豪の正体を明らかにする自筆本の存在は…
篠田節子版の「ジュラシック・パーク」ですね。南海の孤島の「楽園」で、可憐な姿を持ち「水の守り神」として親しまれていた両生類ウアブが、悪魔的な変容を遂げてしまう物語。 きっかけは、ウアブが棲んでいた島の泉が開発によって干上がってしまったことで…
日本語の「悪人」からペンネームをつけたというロシア人作家による、「ファンドーリンの捜査ファイル・シリーズ」の第2作です。今まで4作品が翻訳されていますが、本書を読み落としていました。1作ごとにジャンルを変えて趣向を凝らしているシリーズとい…
『資本論』などの著書によって科学的社会主義思想を確立したカール・マルクスは、1883年に亡くなる前年に、病気療養のためアルジェに滞在したそうです。往復の経路には、パリ,マルセイユ、カンヌ,モンテカルロなどが含まれているのですが、行く先々か…
大手商社に勤める30歳のキャリアウーマン・栄利子は、海外淡水魚の輸入に携わっています。その関係で、外来種のナイルパーチが他の種を食べつくして生態系を破壊し、駆除対象とされていることを知って、気の毒に思います。ナイルパーチだって、他の生態系…
『いのちなりけり』の主人公であった雨宮蔵人・咲弥夫妻の「その後」を、「忠臣蔵の真相」と絡めて描いた作品です。『蜩ノ記』の前に直木賞候補となっていました。 著者は、「忠臣蔵」の背景には、幕府と朝廷の対立があったと解釈します。そしてその双方に大…
前月に読んだ『ウィメンズマラソン』が面白かったので、他の作品も手に取って見ました。 コテコテの大阪・新世界を舞台にした本書は、まるで十数年後の『じゃりん子チエ』。放蕩親父ゲンコと、しっかり者の一人娘センコを中心に繰り広げられる人情悲喜劇。不…
『紙の動物園』で鮮烈な日本デビューを果たした、アジア的感覚を持つSF作家による、『項羽と劉邦』を下敷きにしたハイ・ファンタジーです。『巻ノ一 諸王の誉れ』と本書とで、とりあえずの完結ですが、続編もあるとのこと。 ザナ帝国(秦)打倒の戦いの中…
1190年2月に73歳で亡くなった西行が生きたのは、保元・平治の乱から平家滅亡に至る平安末期の動乱の時代。23歳で出家した後、諸所に草庵を営みつつ、しばしば諸国を巡る漂泊の旅に出た西行が見つめ続けたものは諸行無常の乱世だけだったのでしょう…
大震災直後に子宮ガンを告知されて、「福島で放射能被害が起きている中で、放射線治療を受ける」ことの違和感を覚えた著者が、自身の分身のような女性を主人公に据えて生命の根源を問いかけさせた作品です。 主人公の和美は、特殊な放射線治療を選択して、九…
スコットランドに所領を持つ貧乏公爵の令嬢で、第34位の英国王位継承権を持つジョージーを主人公とするシリーズも、本書が第5作め。ということは第3作と第4作を読み逃していますが、本書を読むうえでは障害にはなりません。たぶん・・。 超貧乏な生活を…
主人公の宇藤聖子は、更年期を意識し始めた50歳。夫の守とは結婚25周年というから、人生の半分が結婚生活だったわけです。夫が仕事で参考文献とするという、約60年前のベストセラーであった伊藤整のエッセイ『女性に関する十二章』を読み始めたことを…
『チャイルド44』にはじまる、スターリン体制下の保安省捜査官デミドフのシリーズで人気を博した著者の新作です。 スウェーデンの農場を買って幸せな老後生活を送っているはずの両親から、思いがけない連絡が入ります。父親のクリスからは「お母さんは病気…