りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

虹猫喫茶店(坂井希久子)

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「猫の世話をするだけの簡単なお仕事」という求人募集を見て、喫茶虹猫のバイトに応募した獣医大学1年生の主人公・翔の思惑はいきなり狂わされてしまいます。「ここは猫カフェではなく、猫の引き取り手を探す紹介所」という美貌の引きこもり店長・サヨリさんと、近所のネコ屋敷に棲み、翔のことを息子と勘違いしているボケ老女・東丸一枝に振り回されてしまうのです。

それだけではありません。サヨリさんと似た雰囲気を持つ美貌の青年ヒカル。サヨリさんにベタ惚れの動物病院の相田先生。野良猫の中絶・避妊を巡ってサヨリさんと対立するライバル・伊澤さん。リア充で可愛いけれどズレた所もある獣医学部の後輩・桜子、子猫を捨てに来た女子小学生の心愛。彼らが持ち込んでくる人間関係や人猫関係に触れていく中で、獣医となることを嫌がっていた翔は成長していくのです。

猫も数十匹という単位になると、可愛いとかいう感情だけで世話できるものではありません。餌やりも、猫砂の交換も、部屋の掃除も、バースコントロールも含めて、ハードな肉体労働なのですね。ボランティアよりも、金銭対価が絡むバイトのほうが信頼できるという感覚も理解できます。

もちろん、猫が好きであることは前提ですね。最後のよりどころは、「飼い主に愛されて亡くなった猫は、虹の橋のたもとで主が来るのを待っている」という信念だそうですから。猫を介在させた「下町人情物語」でした。

2016/11