#毎月のベスト本
昨年出版された森見さんと万城目さんの新作を、ほぼ同時に読みました。個人的には、京都にこだわり続ける森見さんのほうが、物語世界を広げている万城目さんよりも好みなのですが、今回は万城目さんのほうが良かったですね。作家となる決意を抱くに至る作品…
オーストリアの世界遺産ハルシュタット近くの岩塩杭で、ナチが略奪した美術品を爆破される直前に救出した場面は、映画「ミケランジェロ・プロジェクト」でもクライマックスになりました。映画の原作となったノンフィクション・ドキュメンタリーを今月の1位…
巨匠の遺作か、人気作家の新シリーズか、新鋭作家の直木賞候補作か悩みましたが、10年前に出版された写真集を1位に選ぶことにしました。この作品で突きつけられた課題は、今でも色褪せていないどころか、いっそう先鋭化しているのです。大きくて重くて高…
ライトノベル作家から出発した須賀しのぶさんは、2013年には『芙蓉千里』三部作でセンスオブジェンダー賞大賞受賞、2016年には『革命前夜』で大藪春彦賞受賞・吉川英治文学新人賞候補となり、近刊の『また、桜の国で』では堂々の直木賞候補に挙げら…
今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみます。 長編小説部門(海外) 僕の違和感(オルハン・パムク) ノーベル賞を受賞した著者の、トルコ愛・イスタンブル愛を強く感じる作品です。イスタンブルで伝統的飲料「ボザ」を売り歩く行商人メヴル…
1年を締めくくるのにふさわしい作品が並びました。『バラカ』にも『鹿の王』にも著者の強い思いを感じました。宮部さんの「杉村三郎シリーズ」は長編のほうがいいですね。『プラハの墓地』は、さすが巨匠の作品です。前月読んだ作品の続編では『ザ・カルテ…
今月は、シリーズの途中とか上巻だけとか、読み切っていない作品のほうに秀作が多かったようです。まとめて次点に入れておきました。最終評価は最後まで読んでから。 1.ブラインド・マッサージ(ビー・フェイユイ) ブラインド・マッサージ」とは、盲人に…
ケン・リュウさんがアジア的感覚で紡ぎ出す「シルクパンクSF」は面白いのですが、どうしても、下敷きである『項羽と劉邦』と比較してしまいます。オリジナルの物語を知らない人の方が楽しめるかもしれません。「その後」の物語となる「第3部」に期待しま…
今月は休暇と出張が続いたため、手軽に持ち運べる文庫本が大半でした。そのせいか、軽めの本が多かった印象です。その中でも、旧作ですが昭和初期の史実を題材にして、途中まではほとんどノンフィクションかとさえ思わせた、池宮彰一郎さんの『事変』の巧み…
今月の読書リストを見返すと、「絲山秋子、桜木紫乃、西加奈子、三浦しをん、朝井まかて、原田マハ、梶よう子、青山七恵、島本理生、桂望実」と、現代の女性作家の名前が目につきます。偶然なのですがせっかくなので、今月の1位はその中から選ばせていただ…
再々読の『ホテル・ニューハンプシャー』は別格です。町田康訳の『宇治拾遺物語』も、『妖星伝 全7巻』も迫力ありましたが、今月の1位はオーソドックスに、ノーベル賞作家オルハン・パムクの新刊にしました。テロと難民問題に揺れる現在のトルコに対して、…
西加奈子さんの直木賞受賞作は、ストーリー・テラーとしての力量を見せてくれただけでなく、アーヴィングやコンロイを彷彿とさせるほどの迫力に満ちた作品でした。文句なしに、今月の1位です。 池澤夏樹編「日本文学全集 第3巻」は、『源氏物語』前後に成…
自作の世界的大ヒットを知ることなく早逝したスティーグ・ラーソンの『ミレニアム3部作』に、公式の続編が登場。3部作で唯一決着がついていない問題を掘り下げた点が当然としても、著者が代わったことを感じさせない力量が素晴らしい。第6部までの契約だ…
佐藤亜紀さんの新作は「さすが」と思わせる作品でした。辻原登さんの『冬の旅』には、高村薫さんの『冷血』と繋がる匂いを感じます。 20世紀初頭の中欧で「幻想歴史小説」の先駆者となったレオ・ペルッツの作品を、3冊続けて読みました。最近相次いで発行…
3月にアップしたレビューの半分以上は、2月の長い出張の間に読んだ本です。だから、文庫本の比率が高いのです。2位にした『世紀の空売り』を映画化した「マネー・ショート」を見ました。原作を読んでいたせいで、よく理解できました。 1.長いお別れ(中…
1位に上げたのは、アルジェリアに生まれてローマに在住している著者による、「異文化の衝突」をテーマにしたコメディです。現実世界での移民問題は、もはや「笑える状況」ではないのですが・・。 山本弘さんの「ビブリオバトル」を扱った小説は、2冊とも新…
新年早々ですが、リチャード・パワーズの新作も、ポール・オースターの新作も、宮部みゆきさんのファンタジーも、少々期待外れ。『オルフェオ』を1位としたのは、消去法です。★はつけませんでしたが、一番おもしろかったのは、『テスタメントシュピーゲル …
今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみます。 長編小説部門(海外) アルタイ(ウー・ミン) 4人の匿名イタリア人作家集団による共作です。「レパントの海戦」の前夜、トルコ王のもとでキプロスにユダヤ人の王国を建設するという夢を共有し…
現代SF作品の最先端をいく、円城塔とイーガンの新作を読みました。前者はサイバー世界の行きつく果てをメタフィクションとして、後者はサイバー世界への入り口を近未来ものとして描いています。同じSFでも、ディストピアものである『ダスト』は、3部作…
今月の1位は、トレヴェニアンの遺作となった自伝的な作品にしました。途中まで、「クロニクル4部作」が凄い作品だと思っていたのですが、最終巻のエンディングの読後感が悪すぎます。まだ20代と若い時代小説作家・谷津矢車さんの作品には「伸びしろ」を…
「読書の秋」にもかかわらず、読書量が落ちています。理由は明白。読書に割く時間が減っているから。秋は眠い! 1.歩道橋の魔術師(呉明益) かつて台北に存在していた一昔前の巨大ショッピングモールで育った少年の記憶は、マジック・リアリズムの世界の…
今月は比較的「軽めの読書」でしたが、上位にあげた2冊は、テーマも文体もジャンルも異なっていながら、人間という存在に希望を感じさせてくれる作品でした。 ミステリ・ファンの間で評価が高かった『その女アレックス』は、もちろん高水準の作品でしたが、…
今月の1位は、今年4月に亡くなられた船戸与一さんの絶筆となった作品に捧げましょう。複眼的な視点によって歴史を立体的に描き出す手法は、最後の最後まで冴えわたりました。著者が描いたものは、わずか13年しかない満州国の興亡ではなく、明治維新後8…
今月の1位と2位は、ほとんど同じメンバーであるイタリアの匿名作家集団の作品です。精緻な歴史解釈の中に潜ませたささやかなフィクションが、やがて歴史を再構築してしまう大技を楽しめます。しかも敗者の立場から、「人間の生き方に対する普遍的な問い」…
今月は、村田喜代子さんの迫力ある2冊がワン・ツー・フィニッシュ。なんと『蕨野行』以来、10年ぶりです。「東雲のストライキ」として話題になった、明治期の遊女たちの決起を描いた『ゆうじょこう』の主人公の少女は、自伝的小説である『八幡炎炎記』の…
最近になって、沢木耕太郎さんの「私ノンフィクション」に惹かれるようになってきました。『深夜特急』だけの作家ではなかったのですね。『流星ひとつ』も良かったのですが、ただ1人の読者に向けて書かれた作品ですので、1位からは外しました。 朝井まかて…
先月の『凍』に続いて、沢木耕太郎さんのドキュメンタリー『キャパの十字架』を読みました。『深夜特急』のイメージが強すぎて、今までまともに読んだことがなかったことを後悔。著者自身の観点を明確にした、「私ノンフィクション」の面白さを堪能しました…
池澤夏樹さんの翻訳による『古事記』を読みました。まともに読んだのは初めてでしたが、冒頭からヤマトタケルまでの物語は結構覚えていました。それ以降は断片的です。「神話教育」に関わる問題があることは理解しているつもりですが、「怪しい日本神話」を…
5年をかけて書き続けられた高田郁さんの「みをつくし料理帖」が、第10巻で完結しました。人物描写に深みがないとか、ご都合主義とかの批判も聞きますが、著者の人柄がにじみ出てくるような作風は嫌いではありません。 1位はジュンパ・ラヒリさんの10年…
それぞれにテイストは異なりますが、『かたづの!』も『風太郎』も『HHhH』も『甘美なる作戦』も、小説を読む醍醐味を味わうことができる、優れた作品でした。ランク外にはしましたが、桜庭さんや、川治さんの近作にも、楽しませていただきました。 でも…