りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2016/4 吸血鬼(佐藤亜紀)

佐藤亜紀さんの新作は「さすが」と思わせる作品でした。辻原登さんの『冬の旅』には、高村薫さんの『冷血』と繋がる匂いを感じます。
20世紀初頭の中欧で「幻想歴史小説」の先駆者となったレオ・ペルッツの作品を、3冊続けて読みました。最近相次いで発行されているのは、再評価されているということなのでしょう。
1.吸血鬼(佐藤亜紀)
近隣3国によって分割された19世紀のポーランドハプスブルクから派遣された句新任役人の前で次々と発生する怪死事件。その凶兆を祓うために行われる陰惨な慣習。この地方に伝わる「最初は形がなく、血を吸うに連れて次第に人の形を整える」ものとは何なのか。農民によって1000人のポーランド貴族が殺害された、1846年の「ガリツィア虐殺事件」の前夜を描いた作品のようですが、冗長な説明をいっさい排除して、簡潔ながら濃密な文章で構成される文体とマッチした内容になっています。

2.冬の旅(辻原登)
転落し続けた人生の果てに、主人公がたどりついた先は「幽界(かくりくに)隈野」でした。怪しげな「悪人正機説」に惹かれた主人公は、「私は別様に行きえたのに、このようにしか生きえないのは何故であるのか」と自問しつつも、さらに転落の道を歩んでいくのです。「近代理性にとって代わる何ものか」に、ひとつの回答を与えた作品のように思えます。

3.いちばん長い夜に(乃南アサ)
上戸彩飯島直子の共演でドラマ化された「芭子&綾香シリーズ」の完結編です。自分を恥じて世間に怯えていた「前科持ち」の2人の女性は、新たに生きていく希望を持つことができるのでしょうか。本書の取材のために仙台を訪れた日に起こった出来事が、物語の結末を、当初の構想から大きく変えてしまいました。その日は、2011年3月11日だったのです。



2016/4/30