りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2015/7 アルタイ(ウー・ミン)

今月の1位と2位は、ほとんど同じメンバーであるイタリアの匿名作家集団の作品です。精緻な歴史解釈の中に潜ませたささやかなフィクションが、やがて歴史を再構築してしまう大技を楽しめます。しかも敗者の立場から、「人間の生き方に対する普遍的な問い」を発していくのですから、魅力的でないわけがありません。これまでのところ、今年最大の収穫です。
1.アルタイ(ウー・ミン)
4人の匿名イタリア人作家集団による共作です。物語の舞台は、「レパントの海戦」前夜のコンスタンティノープルヴェネツィアでは諜報部員の猟犬にすぎなかった主人公は、キプロスユダヤ人の王国を建設するとの夢を共有することによって、「ハヤブサ(アルタイ)」のように大空を羽ばたこうとするのですが・・。「匿名の作家群」による「敗者の叙事詩」は、時代や人種を超えて人間に共通する、普遍的な問いを内包しています。

2.Q(ルーサー・ブリセット)
匿名イタリア人作家集団によって、『アルタイ』に先行して著された作品です。ドイツ農民戦争の敗北、ミュンスター再洗礼派共同体の崩壊と、体制側に負け続けた主人公は、その背後に「Q」と呼ばれる密偵が存在していたことに気づきます。ヴェネツィアの禁書出版事業に罠を仕掛けて、最後の勝負に出るのですが・・。史実に潜ませたフィクションによって、歴史そのものを再構築してしまった傑作です。

3.西太后秘録(ユン・チアン)
『ワイルド・スワン』と『マオ』の著者が、「中国を衰退させた悪女」のイメージが強い西太后の「正当な評価」を試みた作品です。改革への意志と、伝統や因習による束縛という矛盾を一身に体現しながら、生涯を国家に捧げた偉大な女性の生涯を、「女性目線」で描いていきます。彼女と比較すると、思考停止してしまった皇帝や、優柔不断な男たちのヘタレぶりが、なんとも情けなくなってきます。


2015/7/30