りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2015/12 エピローグ(円城塔)

現代SF作品の最先端をいく、円城塔とイーガンの新作を読みました。前者はサイバー世界の行きつく果てをメタフィクションとして、後者はサイバー世界への入り口を近未来ものとして描いています。同じSFでも、ディストピアものである『ダスト』は、3部作の完結編として竜頭蛇尾の感があったのが残念。瀬名秀明さんの『新生』は、最初の2編が短編として優れていると思いました。

1.エピローグ(円城塔)
現実宇宙をOTC(オーバー・チューリング・クリーチャ)に征服された人類は、「イザナミ・システム」を用いて「n次シミュレーション宇宙」に退転を繰り返しています。要するに人類はソフトウェアでしかないのです。宇宙法則も因果関係も通用しない世界で、訳のわからない戦闘や事件が起きる物語は、どこに行きつくのでしょう。最後まで残るものは「ストーリーライン」?!

2.ゼンデギ(グレッグ・イーガン)
ゼンデギとはイラン語で「人生」のこと。現代ハードSFの第一人者が、現代から近未来のイランを舞台にして、仮想現実と仮想人格の可能性を描いた作品です。SFでは当たり前に登場する人格のサイバー世界へのアップロードは、現在の技術の延長線上に実現可能なのでしょうか。ついでながら、「アラビアン・ナイトの世界」は仮想現実の世界と相性が良さそうです。

3.波止場浪漫(諸田玲子)
清水次郎長の姪(後に養女)の末裔である著者が、やはり次郎長の養女となった実在の女性「波止場のおけんちゃん」の恋を描いた物語。彼女はなぜ独身を通して、次郎長が遺してくれた船宿「末広」を閉じる選択をしたのか。丁寧に描かれた世相と市井の人々の暮らしや、作中に見え隠れする漱石、子規、一葉、晶子らの姿や文学も、「おけんちゃんの恋」に色を添えてくれました。


2015/12/27