りぼんの読書ノート

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新生(瀬名秀明)

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小松左京の到達点にして未完に終わった大作『虚無回廊』へのオマージュ的作品です。もとの作品を読んでいないと、こういう作品の理解は難しいですね。何しろ、人工実存の開発者・遠藤秀夫、妻・アンジェラ、研究所のダン兄弟、天才的言語学者のミシェル、前世界連邦大統領のケン・ズウら、『虚無回廊』の主要登場人物が総出演しているのですから。とはいえ、本書はあくまで独立した作品ということです。

互いに関連する3つの作品から構成されています。冒頭の「新生」は、後に遠藤秀夫の父親となる青年・遠藤秀昭の物語。ポリネシアでマリアという女性と出会った青年は、自分たちを、アフリカから何万年もかけて世界へと進み続けたラピタ人の末裔だと直感して、激しく愛し合います。次に彼らが向かう先は、地球の外になるのでしょうか。

次の「Wonderful World」は、ミシェルの父親の物語。天才物理学者であるマルセルは、これまでの未来予測が外れてきた理由はミクロとマクロの相関が未完成だったからであるとして、両者を結び付けるシミュレーションを提唱します。どうやら、ミクロとは人間のことであり、マクロとは宇宙のことのようです。

そして最後に置かれた本編「ミシェル」で、物語は佳境に入っていきます。精神を閉ざした遠藤秀夫の深層意識に送り込まれた人口実存アンジェラEが見出したものは、「果てしなく広がる虚無」だったのでしょうか。そしてそれは、ミシェルを視点人物として並行進行する物語に登場する、光年単位で計測される巨大な「SS(Super Structure)」と共通しているものなのでしょうか。ここにきてミクロとマクロの関係は、ぐにゃりと捻じ曲がってしまったように思えてきます。

物語は「生命=コミュニケーション」という結論へと収斂していくように見えますが、それと対峙するであろう「虚無」との関係は、まだ理解を超えたところにあるようです。さらに「この先」もありそうです。

2015/12