近未来を舞台にして、冷凍睡眠に関わる倫理問題をテーマにした『モルフェウスの領域』の続編です。
難病の治療技術が確立するまで「コールドスリープ」に入っていた少年・佐々木アツシは、彼と入れ替わって眠りについた日比野涼子の生命維持管理をしながら、桜宮学園中等部に通っています。凍眠中の睡眠学習によって高度な学力を身につけていながら、後見人の西野昌孝の指示で平凡な少年に擬態していたアツシでしたが、彼の周囲に変わった仲間が集まってきます。
天才コンサルタントを父親に持つゲームの達人で冷酷な美女の麻生夏美。アツシのボクシング能力を見抜いた中学チャンピオンの蜂谷一航。悲劇のヒロイン志望のドM文学少女の北原野麦。彼らを敵視する保守的な教師、お姫様キャラの委員長、ライバル校の天才ボクサーらを交えて、アツシの中学・高校生活が過ぎていく中で、涼子が目覚める日が迫ってきます。
実は涼子はアツシに、ある重大な決断をするよう指示を残していたのです。上司兼後見人の西野昌孝、ゲーム理論の世界的権威で「凍眠八則」を提唱した曽根崎伸一郎、東城大付属病院の看護師長になっている如月翔子、さらには東城大教授になっている田口先生らのアドバイスを得ながら、アツシが下した決断とは何だったのでしょう。
物語としては面白いのですが、冷凍睡眠に関わる倫理問題は時期尚早ですね。人格や記憶を操作可能としている前提そのものが、非現実的に思えますので。ただし、「今そこにある政治問題」より、「将来の倫理問題」のほうが、小説のテーマには馴染むようです。
2015/12