りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2016/12 プラハの墓地(ウンベルト・エーコ)

1年を締めくくるのにふさわしい作品が並びました。『バラカ』にも『鹿の王』にも著者の強い思いを感じました。宮部さんの「杉村三郎シリーズ」は長編のほうがいいですね。『プラハの墓地』は、さすが巨匠の作品です。前月読んだ作品の続編では『ザ・カルテル』はよりパワフルになっていった一方で、『クロコダイル路地』は若干トーンダウン。
1.プラハの墓地(ウンベルト・エーコ)
明白な偽書でありながら、帝政ロシアポグロムや、ナチスドイツの民族浄化の根拠ともされた『シオンの議定書』の成立過程を語った作品です。「民族主義」とは常に「民族の敵」を必要とするものなのか。人間とは「信じたいものだけを信じて、娯楽小説のような陰謀論を好む」愚かな存在なのか。2010年に著された作品ですが、隣国への憎悪を煽る国家や差別意識を顕にする次期大統領が登場するに至った現在の世界を予言しているようです。

2.ザ・カルテル(ドン・ウィンズロウ)上巻  下巻
メキシコの麻薬王アダン・バレーラと、アメリカのDEA捜査官アート・ケラーの30年に渡る闘争を描いた『犬の力』の続編は、遥か遠くまで読者を運んでしまいます。巨大な利権を争い合う凄まじい暴力と、国家権力の上層部までも巻き込む腐敗は、エスカレートし続けるのです。郷土愛と恐怖の間で揺れる一般市民すら押し潰していく麻薬戦争の原因を作ったアメリカへの、著者の強い怒りを感じます。

3.鹿の王 (上橋菜穂子)上巻  下巻
2015年度の本屋大賞のみならず、日本医療小説大賞も受賞した作品です。被支配民族が支配民族に対して仕掛けた病原菌テロをテーマとし、死に至る病の対極にある生命への希求までを描こうとした意欲作。複雑で多様で答えのない世界を照らしているのは、「人の間のわずかな影響関係が、人類を滅亡させずにいる理由なのではないか」という著者の想いのようです。異世界における医学の在り方まで創造してしまった「上橋菜穂子ワールド」にようこそ!



2016/12/28