りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009-01-01から1年間の記事一覧

老人と宇宙3 最後の星戦(ジョン・スコルジー)

シリーズ第3作で完結編。 地球から飛び出て宇宙に殖民を開始した人類が遭遇したのは、敵意に満ちた異種族たち。75歳以上の老人を寡り、若返って強化されたクローン肉体を与えて戦闘要員とするという「戦士の体験」を描いたのが第1巻。(これはかなり面白…

ハチはなぜ大量死したのか(ローワン・ジェイコブセン)

2006年以降、北半球に棲息するセイヨウミツバチの1/4が消滅しています。女王や幼虫を残したまま、突然働きバチが失踪して、コロニーが崩壊していくのです。著者は、「蜂群崩壊症候群(CCD)」と名づけられたこの現象に、多面的に挑みます。 そもそ…

倒壊する巨塔-アルカイダと「9・11」への道(ローレンス・ライト)

昨年の「ニューヨーク・タイムズ最優秀図書」であり「ピュリツァー賞」受賞作品。「アルカイダ」の思想的背景からその誕生、そして「9.11テロ」に至る軌跡を丹念に追いかけて、彼らの「実像」を伝えるノンフィクション作品です。 そもそも、同じイスラム…

少年少女飛行倶楽部(加納朋子)

加納さんというと「ミステリ作家」の印象が強く、「アリスもの」の1冊を読みかけて興味を持てずに途中でやめたという接点しかなかったのですが、本書は楽しめました。あとがきで「底抜けに明るい、青春物語が書きたくなりました」と言っていますが、成功し…

スプートニクの恋人(村上春樹)

この本は商業的にはヒットしなかったようですが、個人的には一番好きな作品です。村上さんの描く女性もステキでしたし。まずは、冒頭の一文を紹介いたしましょう。 22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような…

ヴェネツィアの宿(須賀敦子)

『ミラノ 霧の風景』と『トリエステの坂道』に続く須賀さんの3作目の著作は、自伝的な色彩が濃いものでした。ヴェネツィアの宿に泊まった夜。通りを超えてフェニーチェ劇場から流れてくるアリアに身を委ねながら、著者の思いは過去に向かいます。 ヴェネツ…

僕僕先生3 胡蝶の失くし物(仁木英之)

『僕僕先生』シリーズの第3弾です。美少女の姿をした仙人の「僕僕先生」と、彼女(?)に惚れ、一方でなぜか彼女からも気に入られて、玄宗皇帝時代の大唐帝国内を一緒に漫遊している気の弱い薬師の王弁クン。 第1巻から登場している仙馬・吉良や、ペットと…

パパママムスメの10日間(五十嵐貴久)

会社員の父親と高校生の娘の心が入れ替わってしまった『パパとムスメの7日間』から2年後、またも川原家の家族に「入れ替わり」が起こってしまいます。しかも今度は、「パパ→ママ」、「ママ→ムスメ」、「ムスメ→パパ」の3者シャッフル! 一度「入れ替わり…

ケンブリッジ・クインテット(ジョン・L.キャスティ)

1949年のある日。政府の科学顧問を務めている物理学者スノウの呼びかけに応じ、4人の「知の巨匠」たちがケンブリッジに集まり、ディナーをともにします。実はこのディナー、英国政府に対して「人工知能の可能性」を答申することになったスノウが有識者…

イオニアの風(光原百合)

ギリシャ神話に想を得た、テレマコスとナウシカアの物語。トロイ戦争を舞台にした、先行する2つの物語は「長い序章」的な位置づけですね。 プロメテウスから「意思」を授かったものの、戦争を繰り広げてきた人間たちから「意思」を取り上げるべきかどうかの…

秘密の花園(三浦しをん)

「女子高生」・・少女から女性へと変わっていく多感な年頃。自分の高校時代なんて、今になって思い返すと、恥ずかしいことがいっぱい。できれば忘れてしまいたいような時期。しかしそれだけに、「自分の秘密を繰り返し書き続ける人種」である作家としては魅…

ねじまき鳥クロニクル(村上春樹)

会社を辞めて専業主夫状態にある30歳の「僕」と、編集者として働く妻「クミコ」の生活のバランスが猫の失跡をきっかけにして狂いはじめ、ついに妻が失踪してしまう。 妻は何か邪悪なものに汚されてしまって、そこから脱出できないでいるようなのですが、妻…

国境の南、太陽の西(村上春樹)

『ねじまき鳥クロニクル』は妻が失踪したところから始まりますが、本書はその「前史」とでもいうべき作品であり、幼年から中年に至るまでの主人公の人生を丁寧に追っています。 1951年に生まれたハジメは、当時は珍しかった一人っ子であり、そのためか何…

素数たちの孤独(パオロ・ジョルダーノ)

イタリアの若い物理学者が著したストレーガ賞受賞作、かつこんなタイトルなので、かなり硬い内容の本を期待していたのですが、エゴイストの男女の悲恋物語でした。 これ、そのまま「いまどきのTVドラマ」になりそう・・と思ったところで、3ヶ月ごとに乱造…

地獄のコウモリ軍団(バリー・ハナ)

クレストシリーズの中でも異彩を放つ異様なタイトルで、しかもこの表紙。前から気になっていましたが、手を出せずにいた本です。 「南部的ブラックジョーク」とでもいうのでしょうか。老い、死、犯罪、差別、ホモ、セックス・・ダークなワード満載。悲惨な人…

2009/9 ミスター・ピップ(ロイド・ジョーンズ)

あらためて村上春樹さんの長編を、はじめから読み返しています。2度めでもおもしろいし、2度めでも難解。『1Q84』にあった言葉を思い出してしまいます。「説明しなければ理解できないのなら、説明しても理解できない」^^; 村上さんの小説は再読でも…

中間航路(チャールズ・ジョンソン)

「中間航路」とは、アフリカの奴隷を西インド諸島やアメリカに運ぶ航路のこと。19世紀はじめ、アメリカがまだ奴隷貿易に手を染めていたころの海洋冒険物語。 イリノイ生まれで親切な牧師から教育を受けた後、牧師の死後解放されることとなった元奴隷の黒人…

銀二貫(高田郁)

『八朔の雪』と同様、大阪の「食文化」をテーマにした商人物語です。仇討ちで父を亡くしたところを、大阪天満の寒天問屋のあるじ和助に銀2貫で救われ、丁稚として引き取られた10歳の少年・鶴之助は、名前を松吉とあらためさせられ、商人としての厳しい躾…

この庭に - 黒いミンクの話(梨木果歩)

わっ、わかりにくい・・。童話っぽいけど理解できませんでした。『からくりからくさ』の4人(蓉子、与希子、紀久、マーガレット)が育てている、マーガレットが産んだ男の子、ミケルを主人公とした幻想的な物語。 冬の日。雪に降り込められた部屋。大人にな…

ダンス・ダンス・ダンス(村上春樹)

初期3部作の続編にあたります。『羊をめぐる冒険』での寂寥としたエンディングから4年後にあたる1983年、心は凍りつかせたままで「文化的雪かき」をこなしながら生きてきた「僕」が、ふたたび「いるかホテル」を訪れることから物語は動き始めます。 時…

ダッシュ(五十嵐貴久)

陸上部のスーパーレディの「ねーさん」こと菅野桃子先輩に憧れている4人の後輩が、手術で片足を失ってしまう「ねーさん」のために奔走します。 それが半端じゃない。彼らが青春をかけて「ねーさん」に尽くす様子は、ちょっと例えは違うでしょうが、「ヨン様…

白き瓶-小説 長塚節(藤沢周平)

子規晩年の弟子であり、伊藤左千夫とともに「アララギ派」の中心的な役割を担った歌人であるだけでなく、農民文学の不朽の名作として讃えられる小説『土』を著した長塚節は、結核によって37歳の若さで亡くなっています。 本書は、山形県の教員時代に同じ病…

リリアン(エイミー・ブルーム)

1924年、ロシアのポグロム(ユダヤ人迫害)によって両親と夫を惨殺され、一人娘も失ったリリアンはボロボロになってニューヨークにたどり着きます。まだ若くて美しいリリアンは、経営する劇場のお針子として雇われるのですが、やがて劇場経営主の父と俳…

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(村上春樹)

村上春樹さんの4作めの長編です。初読の時はめちゃくちゃ面白く感じ「村上さんの最高傑作」と信じていたのですが、再読してみると、それほど物語に引きずり込まれる感覚を味わえませんでした。「ファンタジー仕立ての展開」が、今では新鮮味を失ってしまっ…

告白(湊かなえ)

少年犯罪によって我が子を校内で亡くした女性教師が、犯人の2人の少年に復讐を果たす物語ですね。しかも、それぞれの少年たちに、最も近しい存在である母親を自らの手で殺害させるという残虐な方法で・・。その顛末が、時系列を追っての関係者の独白という…

神様がくれた指(佐藤多佳子)

ちょっと変わった人情ビカレスク小説です。天才的なスリ師ながら人情味に溢れ、兄妹同然に育った幼馴染の咲子をかけがえのない存在と思いながらも、彼女の愛に応えられないでいるマッキーこと辻政夫。 マッキーが出所した日に目撃した少年スリ集団を追って、…

ミスター・ピップ(ロイド・ジョーンズ)

東ティモール紛争は知っていますが、そのすぐ近くのパプア・ニューギニア領のブーゲンビル島で、独立を求めて内乱が起きていたことは知りませんでした。1988年から1998年にかけての10年間、1万人を超える死者を出すほどの激しい戦闘が行なわれた…

静子の日常(井上荒野)

宇陀川静子、75歳。50年連れ添った夫に先立たれ、息子の家族と同居中。このおばあちゃんがチャーミングなんです。苦手の水泳を習いに通っているフィットネスクラブでは人気者だし、嫁との関係も、つかず離れずでうまくいってるなんてのは、まだ序の口。…

西の善き魔女8 真昼の星迷走(荻原規子)

第6巻『闇の左手』でこの世界の謎は明らかになったのですが、この世界が不安定であり、これから先、今までと同じやり方では行き詰る可能性が高いということも示されました。今後この世界をどうしていくのか・・というところまで、あえて描いたのが本巻。 従…

西の善き魔女7 金の糸紡げば(荻原規子)

この巻は完全に「外伝」ですね。幼い頃のフィリエルとルーンの出逢いの物語。もうすぐ8歳になるフィリエルの「家族」は、天文台に住む父親のディー博士と、お隣りのホーリー夫妻。人里離れたセラフィールドの住人は4人しかいないんです。そこに現れたのが…