りぼんの読書ノート

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ダンス・ダンス・ダンス(村上春樹)

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初期3部作の続編にあたります。羊をめぐる冒険での寂寥としたエンディングから4年後にあたる1983年、心は凍りつかせたままで「文化的雪かき」をこなしながら生きてきた「僕」が、ふたたび「いるかホテル」を訪れることから物語は動き始めます。

時代を象徴してか、「高度に発達した資本主義」のシステムのもとで再開発され近代的になった「ドルフィンホテル」で幽霊のような羊男と再会を果たして、「踊れ、踊り続けろ」と指示を出された主人公。

ホテルの精のような女性、謎の美少女ユキと彼女の両親(ヘビーデューティな作家の牧村と天才写真家アメ)、映画に登場したキキ、元同級生で映画スターの五反田クン、高級娼婦のメイとジューン、片腕の詩人ディックらと出逢い、雪の札幌から常夏のホノルルまでを、ステップを踏んで踊り続ける「僕」の行き着く先は?

これは「僕」の再生物語です(・・よね)。その過程で主人公が通り抜けなくてはならないのは、「6体の白骨」に象徴される死の翳であり、再生を果たした後でも「喪失の予感」からは逃れられないけれど、彼を現実世界に繋ぎとめてくれているものの存在くらいは認識できるようになる。

再生過程についても触れておきましょう。主人公の心を再生させたのは、ホテルの精であるかのようなユミヨシさんというより、数々の死に直接・間接の影響を受けることになったユキでした。まだ13歳のユキは、主人公を癒せるような存在ではありません。むしろ、責任を放棄しているかのような両親と、過敏で繊細な魂を持っているユキは、主人公によって守られるべき存在です。奇妙な友人となったユキと対等な関係を結び、公平に誠実に接していく中で、ユキに投げかけた言葉が自分に跳ね返ってくることで主人公の心は動きを取り戻していったように思えます。

作用と反作用。癒しではなくて怒り。タイトルに象徴されるように、軽快でリズム感のある作品です。

2009/9再読