りぼんの読書ノート

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中間航路(チャールズ・ジョンソン)

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「中間航路」とは、アフリカの奴隷を西インド諸島アメリカに運ぶ航路のこと。19世紀はじめ、アメリカがまだ奴隷貿易に手を染めていたころの海洋冒険物語。

イリノイ生まれで親切な牧師から教育を受けた後、牧師の死後解放されることとなった元奴隷の黒人青年カルホーンは、ニューオリンズで放埓な生活をおくっていましたが、ふと関係を持った冴えない女性との結婚を逃れるために、貿易船に乗り込みます。ところが、彼が乗り込んだリパブリック号は奴隷貿易船だったのです。

白人の荒くれ者ばかりの船員の中で、一見偏屈なファルコン船長だけは偏見を持たず、カルホーンを雇ってくれます。給料はタダ同然ですが、海に放り投げられることとの比較ですから、文句を言える筋合いではありませんね。

しかし、問題は帰路に起きました。今回、リパブリック号が積み込んだ奴隷は、普段は他の部族とは交流することなくアフリカの奥地で暮らしている、謎の「アルムセリ族」。それだけならまだしも、密かに巨大な檻に積み込んだ物体はアルムセリ族の「神」だと言うのです。

最後まで「神」の本質はおぼろげにしか明らかにならないのですが、リパブリック号は何かに呪われたかのように苦難に襲われます。ついには船長に対する反乱が企まれ、それに気付いた船長との間で板ばさみになってしまうカルホーン。彼は白人から見たら「黒人」ですが、アルムセリ族から見たら「白人」の一味にすぎません。奴隷貿易船という密閉された小さな社会の中で、黒人とも白人ともつかない立場に立たされたカルホーンが見出した「自分の存在する意義」とは何だったのか・・。

「白人vs黒人」という安易な二元論に逃げ込まない、著者の姿勢がいいですね。奴隷貿易はもちろん「悪」だけれど、人間の営みを超えた存在の前では、誰しも敬虔にならざるを得ないのです。それが大自然であろうが、神であろうが・・。カルホーンが帰国してからのエピソードもパンチが効いています。

2009/9読了