りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

イオニアの風(光原百合)

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ギリシャ神話に想を得た、テレマコスナウシカアの物語。トロイ戦争を舞台にした、先行する2つの物語は「長い序章」的な位置づけですね。

プロメテウスから「意思」を授かったものの、戦争を繰り広げてきた人間たちから「意思」を取り上げるべきかどうかの結論を賭けて、オリュンポスの神々は人間に3つの試練を与えます。

ここまでの2つの試練は一勝一敗。神々の賭博は「人間は自分の意思で行動を選択するのか、運命や神託に委ねるのか」ということでしたが、「パリスとヘレナ」はトロイ戦争を運命のせいにし、「メラニオスとヘレナ」は自分たちの意思で関係を修復させた結果、人間の未来は3つめのテレマコスナウシカア」に委ねられることになりました。

オイディプスの息子テレマコスは、偉大な父親にコンプレックスを感じて育った青年。かつて漂着したオイディプスを救助して以来、父親ほども年齢の違うオイディプスを運命の人と思い定めたナウシカアは、吟遊詩人になってイタケにたどり着くのですが、彼女が出会ったのは、既に父親を亡くした息子でした。

その2人に、あまりにも厳しい試練が襲いかかります。「神によっては倒されない」という古代の魔物が目覚めて、ナウシカアを狙うのです。アポロンの剣とアテナの盾を借り受け、ナウシカアを守るために魔物に立ち向かうテレマコスでしたが・・。

ギリシャの神々というのは、「キャラ立ち」の原型です。ゼウス、アポロン、アテナ、アルテミス、アフロディテ、アレス、ヘルメスなどと名前をあげるだけで強烈なイメージが浮かんできます。人間の英雄たちもまた同じ。オリジナルなキャラを作ろうとすると、どうしてもインパクトに欠けてしまいそう。それに加えてナウシカといったら、宮崎駿のイメージも強いのです。むしろ、アテナに呪わしい運命から救われて以来、彼女に忠誠をつくしたメデューサのいじらしさが際立ちました。

著者の意図は「ギリシャ神話」を広めることにもあったようですが、少々物足りなかったかな。ストーリーの結末も想像できちゃったし。ケルト神話に題材を求めた前作銀の犬のほうが、興味深く読めました。

2009/10/5