りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2023-01-01から1年間の記事一覧

赤刃(長浦京)

『リボルバー・リリーが』原作・映画ともに面白かったので、著者のデビュー作である本書も読んでみました。大正デモクラシー時代の東京で陸軍を動員させるに至ったリリーの物語と、徳川家光の時代に江戸市中を戦場と化した殺戮集団を登場させた本書の物語は…

火喰鳥(今村翔吾)

2022年に『塞王の楯』で直木賞を受賞する著者のデビュー作は、まるで「バックドラフト」のような消防小説でした。 かつて江戸随一と呼ばれて火喰鳥の異名を得ていた武家火消の松永源吾は、5年前の事件がきっかけで致仕を余儀なくされ、今は妻の深雪と貧…

花宴(あさのあつこ)

嵯浪藩の勘定奉行を代々務めてきた西野家の一人娘・紀江は、家を継ぐ婿を取ることが定められていました。しかし彼女には亡き母から譲り請けた、人並み優れた小太刀の才がありました。だから藩内で一、二を争う遣い手である十之介との縁談には心を弾んだので…

歌え、葬られぬ者たちよ、歌え(ジェスミン・ウォード)

トニ・モリスンの『ビラブド』を思わせるマジック・リアリズム的な手法を用いて綴られた、アメリカ南部に生きる黒人家族の物語。2017年に全米図書賞を受賞した作品です。女性としても、非白人としても、複数回の受賞は史上初とのこと。 3人の語り手の中…

ひゃっか!(今村翔吾)

「俳句甲子園」や「書道甲子園」は知っていましたが、「華道甲子園」と呼ばれる「全国高校生花いけバトル」なる全国大会があることは知りませんでした。華道やフラワーアレンジメント部員でなくても2人1組で参加でき、当日決定される花と器を用いて5分間…

晴明変生(森谷明子)

「源氏物語」の「かかやく日の宮」が失われた秘密に迫った『千年の黙』、「紫式部日記」誕生秘話である『白の祝宴』、「源氏物語」の一大転換点「若菜」が書かれた背景を綴った『望月のあと』の著者ですから、平安時代を題材とする物語はお手のもの。本書は…

カザアナ(森絵都)

古来から存在していた、さまざまな自然と通じ合う力を持つ「風穴」なる者たちが姿を消したのは、平安時代末期のことでした。自らの武力によって実権を握った平清盛によって粛清されてしまったのです。それを生き延びたのは、後白河院の姪にあたる八条院暲子…

ベル・ジャー(シルヴィア・プラス)

早熟の詩人であった著者が1963年に30歳で自殺する直前に出版された、唯一の長編小説です。内容的にも、女子大在学中に自殺未遂事件を起こして、その後数カ月間精神病院に入院したという著者自身の体験をモチーフとしているため、スキャンダラスな注目…

京都伏見のあやかし甘味帖 10(柏てん)

前巻ラストで年下恋人の虎太郎が失踪。彼の故郷である丹後の地で何が起こったのでしょう。行方捜索にも行き詰ったれんげの前に突然現れたのは、木島神と陰陽師の賀茂光栄でした。光栄は禍の予兆を読み取り、木島神は鬼の気配を感じたというのです。そして鬼…

三十の反撃(ソン・ウォンピョン)

1988年のソウルオリンピックの年に生まれた女の子の名前で、一番人気だったのは「ジヘ(知恵)」だったとのこと。名前のせいではないけれど平凡な人生を歩んできたキム・ジヘは、気が付けば、世の中にも会社にも期待することをあきらめてしまった、30…

忍者に結婚は難しい(横関大)

『ルパンの娘』と同様にTVドラマ化されましたが、基本形は同じですね。宿敵の一族の末裔が結婚してしまったがゆえに起こる大騒動。もし「ロミオとジュリエット」が結婚できていたとしても、両家のライバル関係は変わらなかったのでしょう。本書の宿敵関係…

アーダの空間(シャロン・ドデュア・オトゥ)

不思議な小説です。アーダの名を持つ4人の女性たちの生と死が、500年の時空を超えてループする物語。植民地時代が始まろうとしている1459年のアフリカ西海岸の村で、生後間もない子を失って悲嘆に暮れる若い母、1848年のロンドンで小説家ディケ…

リボルバー・リリー(長浦京)

綾瀬はるかさんが主演する同名の映画を見てきました。とても面白かったものの、主人公の背景や登場人物たちの関係性の説明が最小限だったので、原作を読んでみました。結論は・・よく理解できたものの、映画と小説は別物と考えたほうが良さそうです。もちろ…

時間のないホテル(ウィル・ワイルズ)

世界中で開催される大規模見本市を飛び回るビジネスマンのニールが愛用するのは、巨大ホテルチェーンの「ウェイ・イン」です。あらゆる大都市で広大な空間を占有し、最新の設備を有して完璧なサービスを提供してくれるホテルの特徴は均一性。それはニールに…

しゃばけ20 もういちど(畠中恵)

江戸の大店長崎屋のひとり息子で病弱な一太郎と妖たちの活躍を通して、生命の不思議さに迫るシリーズも本書で20作目。今回は一太郎の身に不思議な出来事が起こってしまいます。 「もういちど」 今年の夏の異常な暑さは、200年ぶりに起こった星の代替わ…

風にのってきたメアリー・ポピンズ(P・L・トラヴァース)

「ウォルト・ディズニーの約束」という映画を見たことがあります。トム・ハンクス演じるディズニーが、エマ・トンプソン演じるトラヴァースに『メリー・ポピンズ』の映画化を交渉する物語。厳しい条件をつけ、映画のアイデアにダメ出しを繰り返すトラヴァー…

メアリ・ヴェントゥーラと第九王国(シルヴィア・プラス)

天才と称されながら1963年に32歳の若さで命を絶った早逝の詩人、シルヴィア・プラスの短編集です、名翻訳者である柴田元幸氏が絶賛していたので読んでみました。もちろん8編すべてが氏の訳によるものです。どの作品からも強いオリジナリティを感じ取…

聖女ジャンヌと悪魔ジル(ミシェル・トゥルニエ)

聖女ジャンヌとはもちろんフランス救国の乙女ジャンヌ・ダルクのことですが、悪魔ジルとはブルターニュの大貴族ジル・ド・レのこと。ペローの童話で有名な殺人鬼「青髭」のモデルとなった人物です。 実はこの2人には接点がありました。天啓を受けたジャンヌ…

京都伏見のあやかし甘味帖 9(柏てん)

粟田口不動産で働くのにも慣れてきたれんげは、またも神様たちの厄介事に巻き込まれてしまいます。きっかけは、村田の旧友である西陣織師の詠美から、祖母の死後行方不明となった愛猫あんこを探し出すよう依頼されたことでした。しかし詠美が知っているだけ…

2023/10 Best 3

1.ひとりの双子(ブリット・ベネット) アメリカで先祖に黒人を持つ者は、白人のような見かけであっても「黒人」と見なされてしまいます。そんな者たちが白人になりすます「パッシング」を題材とした作品です。矛盾に満ちた混血者たちの町から逃亡した後、…

奇跡の大地(ヤア・ジャシ)

奴隷貿易が盛んだった18世紀のゴールドコースト(現ガーナ)。イギリス人に協力するファンティ族と抵抗するアシャンティ族が対立を深める中で、互いに存在を知らないまま生き別れとなった異父姉妹。姉のエフィアはイギリス人の現地妻となる一方で、妹のエ…

機械仕掛けの太陽(知念実希人)

人類の新型コロナウィルスとの戦いにはまだ終わりは見えていません。新たな変異株が流行する兆しもあるようです。しかし2020年初頭から続いてきた未知のウィルスへの不安感はかなり収まり、「日常」への復帰も始まっています。ただしそれは「新しい日常…

ひとりの双子(ブリット・ベネット)

アメリカ南部にあったという肌の色の薄い黒人ばかりが住む小さな町は、矛盾に満ちた場所でした。白人に憧れながらも、決して白人になれないことを知っている者たちが、人種の超越を夢想していたのです。そんな町から自由を求めて都会を目指した、白い肌を持…

ダッハウの仕立て師(メアリー・チェンバレン)

第二次大戦時のドイツでは、戦争捕虜となった民間人を工場や病院で奴隷労働に従事させており、中には一般家庭で働かせた例もあったそうです。フランスの尼僧であった著者の叔母も、老人介護労働をさせられていたとのこと。ただし歴史学者である著者は、本書…

愚かな薔薇(恩田陸)

恩田陸バージョンの『地球幼年期の終わり』とでもいえる作品です。少年少女たちが新人類へと進化を遂げていく物語。ただし時代設定は無茶苦茶です。1万数千年後に地球が太陽に飲み込まれるというのに、どこかノスタルジックな雰囲気を漂わせているのですが…

フローリングのお手入れ法(ウィル・ワイルズ)

ロンドンでしがない物書きをしている主人公が向かったのは、かつてナチスとソ連に蹂躙された東欧のどこかの国。彼は、神経質で完璧主義の音楽家である学生時代の友人オスカーから、1週間の留守番を頼まれたのです。それは、高級インテリアを備えたスタイリ…

さよならの儀式(宮部みゆき)

著者が2010年から2018年にかけて綴ったSF短編小説をまとめた作品です。時代小説やミステリ、ファンタジーやホラーなど万能作家である宮部さんにはジャンル分けなど不要なのでしょうが、どちらかというとファンタジー寄りのSFというところでしょ…

マイ・リトル・ヒーロー(冲方丁)

主人公は、人に騙され続けて両親の遺産も失い、妻に離婚を宣告され、子供の養育権も失ってしまった中年男性のノブ。狭い中古アパートに住んで半端仕事をしながら、中2の息子リンや、小3の娘アカリと会話できるオンラインゲームだけを楽しみにしている日々…

クルーゾー(ルッツ・ザイラー)

1989年夏の東ドイツ。大学で文学を学ぶエドは、恋人を事故で亡くして絶望し、人生からの逃亡を決意。彼が向かったのはバルト海に浮かぶ小さな島、ヒッデンゼー。「隠者亭」なるホテルで皿洗いの職に就いたエドは、ここが「クルーゾー」というカリスマ的…

夜が明ける(西加奈子)

15歳の時、主人公の「俺」が高校で出会った暁(あきら)ことアキは、唯一の肉親である母親にネグレクトされており、巨漢で吃音のためにクラスで無視されていた少年でした。190cmを超える長身と奇妙な風貌から、フィンランドのマイナーな個性派俳優ア…