りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2015-05-01から1ヶ月間の記事一覧

2015/5 恋歌(朝井まかて)

最近になって、沢木耕太郎さんの「私ノンフィクション」に惹かれるようになってきました。『深夜特急』だけの作家ではなかったのですね。『流星ひとつ』も良かったのですが、ただ1人の読者に向けて書かれた作品ですので、1位からは外しました。 朝井まかて…

獣の奏者1.闘蛇編(上橋菜穂子)

『鹿の王』で昨年の「本屋大賞」を受賞した著者が、『守り人シリーズ』に続いて著した長編シリーズです。「全4巻+外伝1巻」から成っていますので、「闘蛇編」はまだ、導入部にすぎません。それでも、壮大なハイ・ファンタジーの世界観が漂ってきます。 の…

百寺巡礼 第4巻 滋賀・東海(五木寛之)

五木寛之さんが、TVの企画番組で全国100の古寺を巡礼した記録です。まず第4巻を読んだのは、つい先日、石山寺と西明寺を参拝したから。これからも参考にさせていただこうと思います。 「第31番 三井寺 争いの果てに鐘は鳴り響く」 比叡山と袂を分か…

天冥の標8.ジャイアント・アーク〔PART2〕小川一水

第8巻の〔PART1〕は、第1巻の『メニー・メニー・シープ』とほぼ並行していましたが、〔PART2〕に至ってようやく、物語が先に進み出します。 西暦2803年、「咀嚼者(フェロシアン)」の侵入によって首都を失った人類は、評議員エランカを新民…

天冥の標8.ジャイアント・アーク〔PART1〕小川一水

帯に「すべての因果がめぐる第8巻」とあったように、ようやく物語は第1巻『メニー・メニー・シープ』の地点に戻ってきました。 しかし、第2巻から第7巻までの「宇宙史」を読んだ後で見る景色は、当然ながら大きく異なっています。「医師団」「宇宙軍」「…

恋歌(朝井まかて)

2013年下半期の直木賞受賞作です。それまで、この著者のことは知りませんでした。 明治時代の私塾「萩の家」を主宰して、多くの上流・中流階級の子女を教えた歌人・中島歌子が主人公。樋口一葉や三宅花圃を教え育てた歌子には、幕末の過酷な運命に翻弄さ…

本朝金瓶梅(林真理子)

中国で何度も禁書となったエロ小説『金瓶梅』を日本版にアレンジした作品です。富豪の西門慶は札差の西門屋慶左衛門、妾の藩金蓮はおきん、正妻の呉月娘はお月と名前を変えて登場。 金もあれば男ぶりもよい、江戸で評判の女好きで「今助六」と呼ばれる西門屋…

降霊会の夜(浅田次郎)

戦後に子供時代を過ごし、高度経済成長期に青春を迎え、今は一人で山村で暮らしている初老の男が出会ったものは、長い間、自分の心の中に潜んでいた悔恨の念だったのでしょうか。 嵐の夜に迷い込んできた女性に連れられて降霊会に参加した男は、小学生時代の…

岳飛伝 10(北方謙三)

呼延凌率いる梁山泊軍と対峙していた兀朮の金国軍八万騎は、国内の麦不足によって起き始めた民衆蜂起によって戦線を維持できなくなっていきます。もちろんこれは、梁山泊統轄・宣凱の深謀遠慮の成果です。しかし一方の南宋では、宰相・秦槽に米の操作を見破…

オリンポスの神々と7人の英雄 4.ハデスの館(リック・リオーダン)

オリンポスの神々と人間たちを滅ぼして、世界を再びわが手にしようとたくらむガイアの復活まで、あと1月。冥界側と人間界にあるという2つの「死の扉」を閉ざしに旅立った7人のハーフたちの苦戦は佳境にはいってきます。 前巻のラストでタルタロスへと転落…

海峡を越えて(ジュリアン・バーンズ)

ドーバー海峡を越えてフランスへ渡ったイギリス人をめぐる10の物語。時代も趣向もさまざまですが、どの作品からも、隣国に対する著者の「感傷」が強く伝わってきます。「外国にたいする評価が公正かつ正確であることなどほとんど」なく、「外国は、自分の…

阿蘭陀西鶴(朝井まかて)

異端の俳諧師として吟じた数万句の作品は、芭蕉の1句に及ばず、浄瑠璃作者としては近松のような美学センスを持ち合わせなかった井原西鶴が切り開いていったのは「戯作」の道でした。 遊里を舞台にした前代未聞の『好色一代男』。封建社会の一途な恋愛を題材…

有り金をぶちこめ(ピーター・ドイル)

1950年代のシドニーを舞台としたノワール・ミステリというのは、初めて読みました。3部構成で、第1部の冒頭からいきなり死体が登場。罠にはまりそうになった小悪党の主人・ビリーが、ブラフを武器に悪徳警官や街の顔役を相手に立ち回るという展開。 第…

岳飛伝 9(北方謙三)

ついに南宋の梁山泊攻撃が始まりました。韓世忠の率いる水軍が、梁山泊の海上物資集積所である沙門島を急襲したのです。でもそれは想定内。老いた孫二嬢が沙門島と運命をともにする道を選んだものの、集積所は既に空だったのです。 その報復として、即座に史…

弥次喜多化かし道中(桑原水菜)

多摩の大国魂神社に住むタヌキと、谷保天神のキツネは宿命のライバル。年に一度の暗闇祭りの夜、化け相撲で敗れたほうが「けもの汁」の具として奉納されてしまうという、命がけの関係。そんな運命から逃れるために、美きつね・弥次郎兵衛と若たぬき・喜多八…

すかたん(朝井まかて)

「すかたん」とは、大阪弁で間抜けな人を罵る言葉です。江戸から大坂詰めへと転任した夫の急死後も、大阪で自活している知里は、江戸の言葉や感覚が抜けずに、大阪人からは「すかたん」扱い。ひょんなことから大坂でも有数の青物問屋の奥女中として住み込み…

vN(マデライン・アシュビー)

タイトルの「vN」とは「フォン・ノイマン式自己複製ヒューマノイド」のこと。食物でエネルギーを補給して成長し、「複製」を生んで同じクレード(系統)を増やすこともできる機能を備えています。もちろん、 「ロボット三原則」のような「フェイルセイフ」…

芙蓉の人(新田次郎)

女性を主人公とした山岳小説の傑作として、何度もドラマ化されています、。主人公の千代子を演じた女性は、八千草薫(1973年)、五代路子(1977年)、藤真利子(1982年)、松下奈緒(2014年)ですから、錚々たるメンバー。さすがに、良妻賢…

流星ひとつ(沢木耕太郎)

1969年にデビューして空前のヒットを生み出した藤圭子は、わずか10年で芸能界を引退しています。本書は、「流星のように消え去った」歌姫に対して、ロングインタビューをもとに構成された作品です。 「本書では藤圭子という女性の持っている豊かさを、…

光の子供(エリック・フォトリノ)

フランス映画の黄金時代に、映画スタジオの写真家だった父親をもった主人公ジルは、自分の母親を知らずに育ちました。わかっているのは、父親が遺した膨大なポートレートのどこかに、母親の写真が潜んでいるということだけ。父が愛した女優とは、ジャンヌ・…

桑港特急(山本一力)

山本一力さんというと、直木賞受賞作『あかね空』をはじめとして、江戸人情小説の名手との印象しかなかったのですが、故郷の土佐を出発点にした『ジョン・マン』をライフワークとされており、19世紀のアメリカ事情にも通じていらっしゃるようです。本書は…

遥かなるセントラルパーク(トム・マクナブ)

ロサンゼルスからニューヨークまで5000km。3か月かけてアメリカ大陸を横断するというウルトラマラソンと聞いて、単調なランニングを思い浮かべてはいけません。本書は、波瀾万丈でドラマチックな物語なのです。 本書の主人公は、なんといっても「マラ…

ザ・サークル(デイヴ・エガーズ)

近未来を舞台にした「プレ・ディストピア小説」です。北カリフォルニアの巨大企業「サークル」は、情報公開を極限まで推し進めることによって、さまざまなサービスを提供するようになっている、ネット業界の覇者。ここでは、秘密や匿名性や情報削除が「悪の…

紙の民(サルバドール・プラセンシア)

奇妙な小説です。冒頭に登場するのは、紙で人間の臓器や血管を作る、折り紙外科医アントニオにまつわる突拍子もないエピソード。そこに加わるのが、ハリウッド女優のリタ・ヘイワースは「アメリカン・ドリーム」を成し遂げたメキシコ人だったという「偽書」…

一瞬の夏(沢木耕太郎)

アメリカ人の父と日本人の母を持つハーフであり、その黒い肌から「和製カシアス・クレイ」と呼ばれたプロボクサー。世界チャンピオンを目指せる才能を持ちながら、気の優しさと精神的な脆さが災いして、東洋ミドル級王者にとどまったカシアス内藤。 彼の無残…

水底フェスタ(辻村深月)

「ロック・フェスティバル」の誘致が成功してしたたかに生き延びている、六ヶ岳南麓の睦ッ代村。そこに住む高校生・湧谷広海は、請われて村長をしているモダンで温厚な父親のことは尊敬しているものの、大学生になって村を出る日を待ち望んでいます。 そんな…