りぼんの読書ノート

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降霊会の夜(浅田次郎)

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戦後に子供時代を過ごし、高度経済成長期に青春を迎え、今は一人で山村で暮らしている初老の男が出会ったものは、長い間、自分の心の中に潜んでいた悔恨の念だったのでしょうか。

嵐の夜に迷い込んできた女性に連れられて降霊会に参加した男は、小学生時代の同級生・山野井清との再会を果たします。貧しい家庭に育ち、父親から当たり屋を強制されて、そのまま自動車事故で亡くなった同級生。少年が救いを求めていたことに気づいていながら、誰もが見て見ぬふりをしていたことが不幸な事故に結びついたのでしょうか。

男が、2日めの晩に出会うと思っていたのは、大学生のときの恋人・小田桐百合子。学生運動をしていた裕福な大学生たちの中で異質な存在であった、女工の百合子を捨てたことを後悔していた男よりも、彼女はもっとしたたかだったようです。現れたのは別の女性でした。

「罪がない、とおっしゃるのですか」という謎の女性の問いかけが、男に「忘れてしまった罪」を意識させます。悔恨の念が凝り固まって罪となっていたのなら、男はきっと救済されたのでしょう。はっきりと「さよなら」を告げる機会を与えられたのですから。

2015/5