りぼんの読書ノート

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恋歌(朝井まかて)

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2013年下半期の直木賞受賞作です。それまで、この著者のことは知りませんでした。

明治時代の私塾「萩の家」を主宰して、多くの上流・中流階級の子女を教えた歌人・中島歌子が主人公。樋口一葉や三宅花圃を教え育てた歌子には、幕末の過酷な運命に翻弄されながらも生き延びてきた、壮絶な過去があったのです。

江戸の商家の娘であった歌子が、初恋を貫いて水戸藩の中士・林以徳のもとに嫁いだのは、まだ18歳の時。しかし幕末の水戸藩は、天狗党と諸生党の2派が激しく対立し、互いに憎み合うようになっていたのです。天狗党の暴発を止めようとした冷静な夫・以徳も、天狗党の乱に巻き込まれ、歌子は逆族の身内として投獄されてしまいます。

夫や息子らの運命も知らされないまま、牢獄で過酷な生活を強いられ、次々と処刑されていく家族たち。やがて維新がなり、天狗党の名誉が回復されると今度は、諸生党への厳しい弾圧が始まるのです。長く続いた「内乱」の結果、水戸藩は人材を失って維新から取り残されていったことは有名ですね。いや、私が北関東生まれなので知っているだけなのかもしれませんが・・。

著者は、歌子が和歌に込めたのは、恋慕と慟哭と哀悼の心であったとしています。弟子の三宅花圃が死の床についた歌子の手記を発見する場面から始まる本書には、「恩讐を超える仕掛け」が込められているのですが、そこまで書いてしまっては、ネタバレがすぎますね。書評家の大矢博子さんが「朝井まかて初期の代表作と呼ばれることは間違いない」とまで評した作品は、強烈な印象と爽やかな読後感を残してくれました。

2015/5