りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

2023/1 Best 3

1.三体3 死神永生 上下(劉慈欣 リウ・ツーシン) 「三体シリーズ3部作」の最終巻は、宇宙の熱的死と再生への希望までを描く壮大な物語でした。小説的には読者を暗中模索状態に誘い込む第1部が優れているのですが、著者が本当に書きたかったのは本書で…

最初の接触 伊藤典夫翻訳SF傑作選(高橋良平/編)

日本にSFを根付かせたのは、1959年に創刊された「SFマガジン」です。当時の名翻訳家・伊藤典夫が惚れこみ翻訳した宇宙SFの中から、SF評論の第一人者である高橋良平氏が7篇を厳選したアンソロジーです。 「最初の接触」マレイ・ラインスター 地…

興亡の世界史16.大英帝国という経験(青柳正規編/井野瀬久美惠著)

大英帝国時代の前史であった『東インド会社とアジアの海』に続く本書は、現在のイギリスにも色濃く影を落とす「大英帝国というアイデンティティ」を綴っていきます。女王、紅茶、万博、大英博物館、ボーイスカウト、奴隷貿易廃止運動、レディトラベラーなど…

最後の大君(スコット・フィッツジェラルド)

著者最晩年の未完の傑作を、村上春樹さんが翻訳してくれました。西海岸版の『グレート・ギャツビー』とも評されている本書ですが、著者は「その先」を目指していたのでしょう。ギャツビーが「どこからともなく降臨した神話的人物」であるのに対し、本書の主…

名前探しの放課後(辻村深月)

著者の初期作品群を読む際には、順番を間違ってはいけないそうです。リンクしている世界観や登場人物を理解しながら読み進めていくと、一層楽しめるとのこと。ただし各作品単独で物語は成立しているので、あまり順番にこだわる必要はないのでしょう。実際に…

三人孫市(谷津矢車)

石山合戦で織田信長を苦しめた鉄砲傭兵集団「紀州雑賀衆」の頭領であった雑賀孫市という人物については、よく知られていないようです。石山合戦で討ち死にしたとか、後の秀吉による紀州攻略時に謀殺されたとか、関ケ原の戦いの後に水戸藩に仕官したとか、さ…

刀と算盤 馬律流青春雙六(谷津矢車)

著者は新人作家時代に『馬律流青春双六-ふりだし』という作品を著わしています。そこで組討術と経営指南を行う「馬律流」の女師範を登場させていますが、本書はその「はじまりの物語」です。一方で、シャーロック・ホームズが「バリツ」と呼ばれる謎の日本…

未踏の蒼穹(ジェイムズ・ホーガン)

人類の起源を太陽系のスケールで探り出す『星を継ぐもの』は、奇想天外なストーリーでありながら、それを現実的な出来事に思わせてしまう論理展開が素晴らしい、ハードSFの傑作でした。著者晩年の作品である本書がもうひとつの『星を継ぐもの』と呼ばれな…

サハマンション(チョ・ナムジュ)

『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者が、その前から書き始めていたという作品です。舞台は近未来の架空の都市国家ですが、その格差社会のあり方はもちろん現在の韓国の状況が反映されています。 何十年も前に独立したという都市国家「タウン」の前身は、企…

黛家の兄弟(砂原浩太朗)

藤沢周平や葉室麟の系譜に連なる本格時代小説作家の第3作は、『高瀬庄左衛門御留書』に続いて神山藩を舞台とする物語でした。神山藩城下からの風景描写や、有数の大藩を本家とする支藩であることから、モデルは富山藩ですね。 本書の主人公は、代々神山藩の…

すべての月、すべての年(ルシア・ベルリン)

1936年にアラスカで生まれた著者は、父の仕事の関係で幼少期から北米の鉱山町を転々とした後、成長期の大半を南米チリで過ごします。3回の結婚と離婚を経て、4人の息子をシングルマザーとして育てるために学校教師、掃除婦、電話交換手、看護助手など…

三体3 死神永生 下(劉慈欣 リウ・ツーシン)

程心は執刃者の任務を全うし得ませんでした。抑止は破れ、本性を現した三体星人の前に人類は滅亡の危機に追い込まれてしまいます。しかしその時、三体世界の母星が超新星と化して滅亡。三体艦隊は地球を離れていきます。重力波送信を発信したのはいったい誰…

三体3 死神永生 上(劉慈欣 リウ・ツーシン)

中国SF界というより世界のSF界にとっての金字塔である「三体シリーズ」の最終第3部です。異星人とのファーストコンタクトによる人類の危機の始まりを描いた第1部、フェルミのパラドックスに対する見事な回答である黒暗森林理論を用いた抑止計画に至る…

レジェンドアニメ!(辻村深月)

2015年の本屋大賞3位となり、映画化もされた「ハケンアニメ!」のスピンオフ作品が6編収録されています。プロデューサーの有科香屋子も、新進アニメ監督の斎藤瞳も、新潟在住アニメーターの並澤和奈も、ついでに天才アニメ監督の王子千春も再登場。ア…

週末沖縄でちょっとゆるり(下川裕治)

旅行が好きで結構あちこちに出かけているほうなのですが、なぜかまだ沖縄には行ったことがありません。豪華なビーチリゾートライフやダイビングには興味が湧かないものの、沖縄の文化や歴史には関心があるのですが、国内にしては遠いことが唯一の理由かもし…

東欧の想像力(奥彩子/編)

現在まで20冊出版されている松籟社の「東欧の想像力シリーズ」を細々と読み進めています。本書はその副読本として、各国・地域別に20世紀以降の現代東欧文学史を概説し、さらに重要作家を個別に紹介してくれています。 ただし、そもそも「東欧文学」とい…

興亡の世界史15.東インド会社とアジアの海(青柳正規編/羽田正著)

通常はオランダ史やイギリス史の一部として扱われている東インド会社を、世界史の重要な一時代として扱うという大胆な試みです。17世紀のヨーロッパに相次いで誕生した「史上初の株式会社」が、「グローバル化」の端緒として世界を大きく変貌させた重要な…

約束の果て(高丘哲次)

中国と思しき大国・伍州に伝わる2つの史書は、明らかに偽史と小説にすぎないものでした。遥か古代の神話時代に始まる「歴世神王拾記」と、中世の創作とおぼしき「南朱列国演義」。かの国の歴史学者から縁あって引き継いだ書を父親から託された日本人青年が…

年月日(閻連科)

『丁庄の夢』や『愉楽』など中国政府に批判的な作品のイメージが強い著者ですが、本書は中国奥地の山深い農村を舞台にした物語であり、主人公の「先じい」が戦う相手は太陽です。 千年に一度の大日照りに襲われ、農民たちは村を捨てて出て行ってしまいます。…

魂手形 三島屋変調百物語七之続(宮部みゆき)

江戸神田の袋物屋・三島屋で行われている、「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」を原則とする風変わりな百物語の第7作。はじめは三島屋の姪おちかが努めていた聞き手役は、前作から従兄の富次郎に代わっています。語られた話で心の闇を浄化していたおちかと…

朱より赤く(窪美澄)

副題は「高岡智照尼の生涯」。1896年(明治22年)に生まれて数奇な人生を歩んだ後に、1935年(昭和10年)に39歳で出家。寂れていた京都祇王寺を復興し、1994年(平成6年)に98歳で亡くなるまで傷ついた女性たちの心の拠り所となった実…

三体2暗黒森林 下(劉慈欣 リウ・ツーシン)

人類の希望を託した4人の「面壁者」のうち3人までもが「破壁者」によって戦略を暴かれ、無効化されています。最後の1人となった中国人天文学者の羅輯は、宇宙に向けて謎めいた「呪文」を投げかけた後に人工冬眠に入り200年後に覚醒。人類を遥かに凌ぐ…

三体2暗黒森林 上(劉慈欣 リウ・ツーシン)

実は『三体』の第2部以降にはそれほど期待していませんでした。第1部でもスリリングだったのは三体文明の正体が明らかになる前、ランダムな太陽の運行による恒紀と乱紀の繰り返しの中で興亡を繰り返す文明の謎を解き明かす過程だったのですから。しかしア…

保健室のアン・ウニョン先生(チョン・セラン)

韓国女性作家の小説というと最近ではフェミニズム小説の印象が強いのですが、本書は娯楽ファンタジーです。しかし『韓国文学の中心にあるもの』の著者である斎藤真理子さんがシリーズで翻訳している作家の作品でもあり、単純に読み飛ばすわけにはいかない内…

四畳半タイムマシンブルース(森見登美彦)原案:上田誠

劇作家の上田誠さんが主宰しているヨーロッパ企画という劇団の代表作である「サマータイムマシーン・ブルース」を、著者初期の傑作である『四畳半神話体系』の世界で小説化した作品です。上田さん言うところの「魔改造」ですが、まるで『神話体系』の第5章…

あちらにいる鬼(井上荒野)

井上光晴と瀬戸内寂聴の不倫関係を、寂聴と妻・郁子の視点から描き出した衝撃作です。なんといっても著者は井上光晴の長女なのですから。著者は本書を著すに際して寂聴自身から「何でも話しますよ」と背中を押されたとのこと。さらに寂聴は本書を絶賛してい…