りぼんの読書ノート

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刀と算盤 馬律流青春雙六(谷津矢車)

著者は新人作家時代に『馬律流青春双六-ふりだし』という作品を著わしています。そこで組討術と経営指南を行う「馬律流」の女師範を登場させていますが、本書はその「はじまりの物語」です。一方で、シャーロック・ホームズが「バリツ」と呼ばれる謎の日本の格闘技を身に着けていることは有名です。馬を律する技から発展した「馬律流」なるものを創作してしまった著者が、ホームズを念頭に置いていることは間違いありませんが、本書の時点では差し当たって直接の関係は生まれていません。

 

江戸時代、「馬律流」という武術を伝える潰れかけた道場に、ひとりの男が訪れたことが「はじまり」でした。その一瀬唯力という男は、「黒字になった時から一年間、儲けの一割を報酬として支払うことを条件に、経営指南をしてくれる」というのです。窮之のどん底にあった道場を救うために、当主の紗六新右衛門は唯力を道場に住まわせます。やがて道場師範の又三、ヤクザの用心棒稼業に身を落とした助次郎、将棋の天才で元幇間の四平など、曲者ぞろいながら才ある者たちが「唯力舎」を手伝うことになっていくのでした。

 

現代の経営理論を時代劇に持ち込んで成功させる作品は、決して珍しいものではありません。結局は物語自体が面白いかどうかが成否を決めることになるのですが、本書はその点でも成功しています。新右衛門の小普請組仲間の娘で唯一の女弟子である智佐が活躍する場面がなかったのが残念でしたが、続編も書かれるのかもしれません。

 

2023/1