りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

名被害者・一条(仮名)の事件簿(山本弘)

イメージ 1

名探偵の陰に、名被害者あり。
名探偵となる最大の資質は、確率の法則を無視して頻繁に事件に出くわすことだそうです(笑)。では、頻繁に殺人者と遭遇して殺されそうになる「名被害者」と呼ばれる存在はいるのでしょうか。本書の答えはYESです。しかも「名被害者」と呼ばれるためには、何度も被害に逢わなければならないため、決して殺されてはいけないんですね。

本書は、「名被害者」的性質を持つ少女・一条(仮名)が遭遇した事件の記録ですが、主人公は「名探偵」ではありませんので、それぞれの事件の種明かしも何もありません。しかし、最後になって物語全体を通じての強烈なオチが準備されています。

一条(仮名)は、流格闘技道場の師範の奥様で上品な初老の夫人からも、才能もないのにミステリ作家になることを夢見ているミステリ研の部長からも、バイト先のファミレスの店長からも、お下劣アニメ撲滅をもくろむ夫人連盟からも殺されそうになるのですが、彼女が狙われる必然性は希薄なのです。

強いて言えば生きる気力に欠けているように見られることが理由なのでしょうし、事実、事情によっては殺されても構わないとすら思うこともあるくらいなのですが、そこは「名被害者」。決して殺されてしまうことはなく、いつも間一髪のところで助かってしまうんですね。

ところで話は一気に飛躍しますが、地球は常に宇宙人から狙われ続けていたのです。しかし、いつも宇宙人はありあない間抜けな失敗を犯して、地球侵略に成功していなかったんですね。あれっ、これって「名被害者」の資質とそっくり。

実は地球が侵略を免れていたのは、いつの時代にも地球に存在していた「名被害者」たちのおかげだというのですが、ここまでいくと「とんでもミステリ」どころか、「とんでもSF」すら遥かに超えてしまいます。この感覚を素直に楽しめる人にお勧めの作品です。私はもちろん楽しめましたよ。^^

2012/9