りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2021-06-01から1ヶ月間の記事一覧

2021/6 Best 3

1.大統領の秘密の娘(バーバラ・チェイス=リボウ) アメリカ独立宣言の起草者としても有名な第3代アメリカ合衆国大統領トマス・ジェファソンには、黒人奴隷の愛人に産ませた混血の子供たちがいたといいます。大統領選挙中にスキャンダルとして攻撃された…

如何様(高山羽根子)

敗戦後、戦地から復員した画家は本人なのでしょうか。完璧な書類を備え、以前と同様の画力を有しているのに、その男は出征前とは似ても似つかぬ姿をしていたのです。これは戦地で病を得たせいなのでしょうか。しかも時を置かずして男は失踪してしまったので…

塵に訊け!(ジョン・ファンテ)

イタリア移民2世として1909年にコロラドで生まれた著者の、自伝的長編の第2作です。第1作の『バンディーニ家よ、春を待て』では、カトリック系イタリア人であることの差別や、家庭を顧みないDV父親の存在に苦しんでいた少年アルトゥーロは、20歳…

たまもかる(篠綾子)

「万葉集歌解き譚シリーズ」の第2弾です。前作『からころも』に登場した、日本橋の薬種問屋・伊勢屋に奉公する12歳の助松、賀茂真淵先生から和歌を学んでいる17歳の伊勢屋の娘・しず子、謎の陰陽師・葛木多陽人の3人が新たな謎に挑戦。助松の父親・大…

からころも(篠綾子)

『紫式部の娘。賢子』シリーズでブレークした著者による、「万葉集歌解き譚シリーズ」の第1弾。日本の古代に造詣の深い著者の作品ですが、本書の舞台は江戸時代。日本橋の薬種問屋・伊勢屋に奉公する12歳の助松が、賀茂真淵先生から和歌を学んでいる17…

ラー(高野史緒)

ピラミッドの謎に魅せられて、その建設現場を見るためにタイムマシンを開発し、紀元前2600年へのタイムトラベルに成功した現代人ジェディは、驚くべき光景を目にします。当時はまさにクフ王の時代でありピラミッド建造が始まったばかりのはずだったので…

愉楽(閻連科)エン・レンカ

国が指導した売血政策によってエイズが蔓延してしまった貧村の悲劇を描いた『丁庄の夢』と同様に、中国の国家当局への批判精神に溢れた作品です。本書は発禁処分にこそならなかったものの、「反国家」「反体制」「反革命」など、あらゆる「反」で始まる言葉…

高瀬庄左衛門御留書(砂原浩太朗)

50歳近くになって作家デビューした著者による第2長編ですが、既に藤沢周平や葉室麟の作品のような風格を有しています。本書の舞台となっている架空の神山藩も、海坂藩や羽根藩のような存在になっていくのかもしれません。 主人公は、10万石の神山藩で郡…

ポリー氏の人生(H・G・ウェルズ)

19世紀末から20世紀はじめにかけて『タイムマシン』や『宇宙戦争』などの空想科学小説を著して「SFの父」と呼ばれる著者が、自伝的要素を織り込んでコミカルなタッチで描いた作品です。しかし本書は、フェビアン協会に参加して人権擁護活動を行ってい…

まことの華姫(畠中恵)

続編の『あしたの華姫』を先に読んでしまったので、急いで本書を読みました。続編だけでも成立している連作短編なのですが、やはり逆順は良くないですね。主な登場人物たちの背景や人間関係の理由は、こちらを読んではじめて理解できることでした。 舞台は江…

大名倒産(浅田次郎)

ペリー来航によって国内は騒然とし始めたものの、まだ誰もが徳川治世の永続を疑わなかった頃の物語。大半の藩にとっては政治向きのことよりも、財政問題のほうがさしあたっての大問題。泰平の世に積もりに積もった大借金に嫌気がさした越後丹生山3万石の殿…

大統領の秘密の娘 第3部~第8部(バーバラ・チェイス=リボウ)

アメリカ独立宣言の起草者であり第3代大統領のトマス・ジェファソンは、「建国の父」と呼ばれてアメリカ合衆国の理念を代表する人物のひとりです。本書は、そのジェファーソンに黒人の愛人と子供がいたという事実に触発されて書かれた作品です。主人公のハ…

大統領の秘密の娘 第1部~第2部(バーバラ・チェイス=リボウ)

アメリカ独立宣言の起草者としても有名な第3代アメリカ合衆国大統領トマス・ジェファソンは、「建国の父」のひとりとして多くの人々から尊敬されている人物です。本書の各章前に引用されている著作や書簡の文章も、高邁な理念を格調高く高らかに歌い上げた…

一絃の琴(宮尾登美子)

細長い木製の胴にたった1本の弦を張った一絃琴は、あまりにも地味な楽器です。幕末から明治にかけて大阪や土佐を中心に一時流行したものの、現在は後継者も少なくなっているとのこと。本書は、変わりゆく時代の中で一絃琴に魅せられた2人の女性の生涯と確…

アメリカにいる、きみ(チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ)

ナイジェリアのイボ族出身の著者が生まれたのは1977年のことですから、1967年から1970年まで続いたビアフラ戦争が終わった後のこと。しかしイボ族の中でビアフラ戦争の記憶は受け継がれ続けているのでしょう。先に読んだ『半分のぼった黄色い太…

あしたの華姫(畠中恵)

本書は『まことの華姫』の続編だそうですが、知らずにこちらから読んでしまいました。まあ特に問題なく読めます。本書の主人公である華姫とは、実は両国の見世物小屋で評判になっている姉様人形のお華のこと。柔弱な芸人の月草によって遣われる腹話術人形に…

人之彼岸(郝景芳 ハオ・ジンファン)

『郝景芳短篇集』に収録されている「折りたたみ北京」で中国SF界に2度目のヒューゴー賞をもたらした著者の第2短編集です。本書はAIをめぐる短編6作とエッセイからなっていますが、まず冒頭の2つのエッセイが素晴らしい。 「スーパー人工知能まであと…

いかさま師ノリス(クリストファー・イシャウッド)

1929年から1933年にかけてべルリンに滞在していた、当時まだ20代の著者によって1935年に書かれた本書には、崩壊寸前のワイマール共和国における混乱や猥雑さがリアルタイムで描かれています。 物語は、著者の分身であろう若いイギリス人青年ウ…

クララとお日さま(カズオ・イシグロ)

カズオ・イシグロさんのノーベル文学賞受賞第1作は、AIの物語でした。本書の主人公であるクララは、子供の愛玩用に開発された人工フレンド(AF)であり、『わたしを離さないで』のキャシーたちと同様に自分を待ち受けている運命を知らない状態から始ま…

令嬢クリスティナ(ミルチャ・エリアーデ)

20世紀ルーマニア文学の巨匠と呼ばれる著者は、幻想小説作家として知られています。とはいえ1907年に生まれて1930年頃から文筆活動を始めた著者の初期作品は自伝的リアリズム小説であり、専門分野の宗教学・民俗学に基づいた幻想小説を著すのは、…

天使も怪物も眠る夜(吉田篤弘)

8作家の共演による「螺旋プロジェクト」の「未来篇」である本書を最後に読んだのは正解でした。紀元前30世紀の古代から22世紀前夜にかけての5000年に渡る「海族と山族の対立」に一応の決着がつくのです。 本書は伊坂幸太郎さんによる近未来篇『スピ…

アイオーン(高野史緒)

デビュー以来、実は科学が発展していた中近世時代というテーマで、とりわけ音楽・芸術分野の物語世界を描いてきた著者の第5作の舞台は13世紀のヨーロッパでした。かつて高度な科学文明を築いていた古代ローマ帝国は核戦争によって滅び去り、東方の文明も…

ウィトゲンシュタインの愛人(デイヴィッド・マークソン)

なんとも不思議な小説です。ある水曜か木曜に目を覚まして、世界には自分以外、誰一人残されていないようだと気付いた女性ケイトの一人語り。夫や息子がいたようですが既に亡くなっており、誕生日も思い出せませんがおそらく40代後半。記憶も定かではない…

わたしたちが光の速さで進めないなら(キム・チョヨプ)

韓国で人気急上昇中の20代リケジョ作家によるSF短編集。今年1月にTV放送された「第2回世界SF作家会議」で知りました。「とうてい理解できない何かを理解しようとする物語が好き」と語る著者は、ユートピア的な未来においても存在するであろう社会…

入江のほとり(キャサリン・マンスフィールド)

2017年にエクスリブリス・クラシックスとして出版された『不機嫌な女たち』で知った作家です。1888年にニュージーランドに生まれ、10代の時にロンドン留学。20歳の時にいったん帰国したものの、両親の反対を押し切って再びロンドンに渡航。そこ…

職業、女流棋士(香川愛生)

近年は将棋をすることもなく、棋士の名前も羽生世代のタイトルホルダーの方々までしか知らなかったのですが、藤井聡太二冠の登場で棋界が湧いています。さらに新型コロナ禍で在宅時間が増えたのを機に、久しぶりに将棋に関心を向けてみました。そんな時にYou…