りぼんの読書ノート

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ラー(高野史緒)

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ピラミッドの謎に魅せられて、その建設現場を見るためにタイムマシンを開発し、紀元前2600年へのタイムトラベルに成功した現代人ジェディは、驚くべき光景を目にします。当時はまさにクフ王の時代でありピラミッド建造が始まったばかりのはずだったのですが、工事監督官のメトフェルは半ば砂に埋もれたピラミッドを発掘していたのです。そして面会叶ったクフ王は、何かを恐れているようなのです。

 

エジプト最大のピラミッドはクフ王墓所として伝わっていますが、その根拠ははるか後世のヘロドトスの歴史書に書かれた文章のみ。それを証明するミイラや副葬品はもちろんのこと、碑や文書も存在していません。ピラミッドに関する仮説はなにひとつ証明されていないといっても過言ではないようです。想像力を働かせる余地がたくさん残っているのですね。

 

エジプト文明に関心を持ち続けてきたという著者も、そこに目を付けたわけです。ギザの三大ピラミッドの建造年代はクフ王の時代から遥かに遡った超古代であること。それを伝承する「ホルスに従う者たち」の間ですら真相は既に失われていること。天動説や惑星軌道計算の技術などがわずかに遺っているものの、やがて失われる運命にあること。いわゆる超能力も装用の運命にあること。ギザの三大ピラミッドのみが超絶技法で建造されており、他のピラミッドは劣化した模倣にすぎないこと。クフ王は単なる僭称者にすぎないが、この時代に星辰信仰が太陽神信仰へと切り替わろうとしていることなどを、ジェディは「発見」するのです。

 

この議論を推し進めると、宇宙人説とか超古代文明説などの「とんでも論」に行き着いてしまいそうですが、さすがに著者はその前で筆を止めています。不思議を不思議のまま放置しておくことには物足りなさも感じるのですが、賢明な判断だったと思います。著者の古代エジプトヒエログリフに関する知識の深さには感心しました。

2021/6