りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2021-05-01から1ヶ月間の記事一覧

2021/5 Best 3

1.出島の千の秋(デイヴィッド・ミッチェル) 『クラウド・アトラス』の著者による「日本の出島を舞台とする群像劇」というと少々意外な気もしますが、著者は大学卒業後に日本語教師として8年間広島に滞在していたとのこと。陰謀と詐欺が横行する出島に赴…

ウナノハテノガタ(大森兄弟)

伊坂幸太郎さんの提案による「螺旋プロジェクト」の古代編です。互いに相いれないという海族と山族は、紀元前3000年もの昔から対立していたのですね。この頃の日本は弥生時代だったはずです。 海の民「イソベリ」が信仰する楽園「ウナノハテノガタ」とは…

地図集 (董啓章)

1967年に香港に生まれた著者は、、香港人としてのアイデンティティを保ち続けるために書き続けているようです。はじめて香港の小説を読みましたが、中国大陸や台湾の小説とは全く異なる印象です。日に日に自由が制限されつつある現在の香港で、著者は何…

クジラアタマの王様(伊坂幸太郎)

「小説の中にコミックを入れたい」と望んだ著者が用いた手法は、昼間の現実的な生活部分を小説で、夜に主人公が見ている夢を絵で表現することでした。しかもそのギャップが大きくて、夢の世界での冒険の成否が現実世界でのトラブル解決と結びついているよう…

イマジン?(有川ひろ)

「自衛隊3部作」から「図書館戦争シリーズ」というSF・ミリタリー系の小説で華々しくデビューし、多くの作品が映画・ドラマ化された著者ですが、本質的にはラブコメ作家。最近では「お仕事小説+ベタ甘ラブコメ」の作品が目立つようになっていますが、本…

バンディーニ家よ、春を待て(ジョン・ファンテ)

「イタリアの安い赤ワイン」を意味する『デイゴ・レッド』は、著者の実体験をベースに置いた短編集でしたが、こちらは短編で描かれたテーマを有機的に関連付けた長編です。著者の分身であるアルトゥーロ少年のひと冬の物語には、著者が生涯のテーマとした「…

帰郷の祭り(カルミネ・アバーテ)

イタリア南部に点在するアルバニア系住民の子孫である著者の作品も、これで5冊めになりました。貧しい村では生計が立たず、ドイツやフランスにイタリアに出ていく者も多かったようで、自伝的要素も濃い本書においても移住は大きなテーマとなっています。『…

岩伍覚え書(宮尾登美子)

『櫂』と『陽暉楼』に続く著者の第3作は、連作短編集の形式をとっています。語り手は芸妓娼妓紹介業を営む富田岩伍であり、『櫂』の語り手であった妻の喜和や、著者の分身である娘の綾子は後方に退いています。第2次大戦末期に60代半ばになった岩伍が、…

風神雷神(原田マハ)

16世紀後半に、洋の東西で美術の流れを変えた2人の人物が誕生しています。日本では1570年代に生まれて絢爛豪華な琳派祖となった俵屋宗達。イタリアでは1571年に生まれて強烈な明暗でドラマチックな場面を演出したバロックの巨匠カラバッジョ。本…

京都、パリ(鹿島茂/井上章一)

フランス文学界の重鎮鹿島茂氏と、京都に生まれ育って『京都ぎらい』の著作もある井上章一氏が、共通点の多いと思われる2つの都市について対談した作品です。鹿島氏はあとがきで「考えるとは比較することだ」と言い切っり、「一見すると似ているように見え…

出島の千の秋(デイヴィッド・ミッチェル)

『クラウド・アトラス』の著者による「日本の出島を舞台とする群像劇」というと少々意外な気もしますが、著者は大学卒業後に日本語教師として8年間広島に滞在していたとのこと。日本人だけが登場する奇談的な第2部ですら、日本人が書いた物語のように思え…

ヴァスラフ(高野史緒)

タイトルは「ヴァスラフ・フォミッチ・ニジンスキー」のこと。1889年に生まれて1950年に亡くなった不世出のバレエダンサーです。第1次大戦中に戦争捕虜となったこともあり、晩年は精神を病んだことでも知られています。 本書は、コンピューター・ネ…

鏡影劇場(逢坂剛)

何重もの入れ子構造を持つ作品ですが、そのほとんどの部分が19世紀の文豪ホフマンの知られざる半生を描いた手記と、それを入手して解読を試みる日本人たちの物語にあてられています。そしてその物語の書き手の存在を謎に包んでしまう「偽作のあとがき」と…

チンギス紀 8(北方謙三)

草原での大きな戦いが終わりました。しかし敗者たちもそれぞれに生き延びています。タイチウトを率いていたタルグダイは瀕死の重傷を得ますが、妻で女戦死のラシャーンに助けられて北方へと落ち行きました。そこでかつてメルキトを率いていたトクトアと会い…

斜陽(太宰治)

戦後の華族令の廃止によって没落した上流階級の人々のことを言う「斜陽族」なる流行語を生んだほどにヒットした作品です。しかしあらためて本書を読むと、没落貴族の物語というイメージは強くありません。もともと太宰は日本版の『桜の園』を描くつもりだっ…

デイゴ・レッド(ジョン・ファンテ)

「ディゴ」とはアメリカにおけるイタリア系移民に対する蔑称であり、「デイゴ・レッド」とは彼らが飲む低級赤ワインのこと。1909年にイタリア系移民2世としてデンバーに生まれた著者は、「犬、黒人、イタリア人お断り」との張り紙を見て育った世代です…

サンセット・パーク(ポール・オースター)

自罰的な理由で人生を投げ捨てた28歳のマイルズは、フロリダで空き家の残存物撤去という半端仕事に就いています。生まれた直後に実母から捨てられた過去を持つマイルズは、今度は実父と養母を捨てて家を出てきたわけです。彼はピラールという未成年の女性…

首里の馬(高山羽根子)

「記録すること」や「保存すること」は、基本的に孤独な作業なのでしょうか。順さんという老女の民俗学者が収集した雑多な記録を保存している資料館は、彼女の生とともにその役割を終えようとしています。中学生の頃からそこで資料整理を手伝っている未名子…

海と山のオムレツ(カルミネ・アバーテ)

15世紀から18世紀にかけてオスマン帝国の圧政から逃れてきたアルバニア移民が築いた、アルバレシュと呼ばれる村々が、南イタリアのカラブリア州に多く点在しています。そこでは独自の言語や文化が大切に守られているのですが、料理も例外ではありません…

もののふの国(天野純希)

「螺旋プロジェクト」の中世・近世篇は、平将門の乱から西南戦争まで続いた「武士の時代」を、海族と山族の対立の歴史として捉えます。千年近くもの間、国家の支配をめぐる大きな戦いが断続的に起こっていたわけですから、対立関係を描き出すのに、これほど…

【罪人を召し出せ(ヒラリー・マンテル)

ヘンリー8世の時代を、秘書官として裏から支えたトマス・クロムウェルの視点から描くシリーズの第2作。前作『ウルフ・ホール』ではアン・ブーリンの王妃即位とエリザべス誕生までが扱われましたが、本書ではアンの凋落が描かれます。 イギリスの教会をロー…

十二国記 9.白銀の墟 玄の月(4)小野不由美

長い物語に決着がつこうとしています。北方の文州で叛王・阿選に対する抵抗勢力を糾合しつつあった李斎は、ついに驍宗と再会。文州城を拠点とすべく攻略を試みるとともに、王の名のもとに隣国・雁への救援を求めようとします。王宮に軟禁されていた泰麒は、…

十二国記 9.白銀の墟 玄の月(3)小野不由美

王宮に軟禁状態で置かれている泰麒のもとに、耶利という不思議な少女が派遣されてきます。彼女は後に、この世界における流浪の民である黄朱であることが判明します。蓬山を囲む妖魔の棲家である黄海を故郷とし、王に支配されず天帝の意もすり抜ける妖魔の民…

十二国記 9.白銀の墟 玄の月(2)小野不由美

大逆を犯して王の座を奪い取った阿選と会った泰麒は、危害こそ与えられなかったものの体のいい軟禁状態に置かれます。もとよりそんなことは覚悟の内ですが、不思議なのは仮王として権力を掌握したはずの阿選が、ほとんど全ての政務を小物の内宰に委ねたまま…

十二国記 9.白銀の墟 玄の月(1)小野不由美

このシリーズを代表する人物は第1部『月の影 影の海』の主人公で、普通の女子高生から慶国の景王となる陽子でしょう。でも一番多く書かれている人物は、戴国の麒麟である泰麒です。第2部『風の海 迷宮の岸』は、生来の麒麟である自覚を持てずにいた10歳…

掃除婦のための手引き書(ルシア・ベルリン)

はじめて名前を聞きましたが、邦訳されているのは本書だけなので、それも当然でしょう。数奇な人生を歩んだ作家です。鉱山技師だった父親の仕事の関係で1936年にアラスカで生まれた後も、アメリカ各地の鉱山町を転々としながら育ち、父親が第2次大戦に…