りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

十二国記 9.白銀の墟 玄の月(1)小野不由美

 

f:id:wakiabc:20210405111153j:plain

 

このシリーズを代表する人物は第1部『月の影 影の海』の主人公で、普通の女子高生から慶国の景王となる陽子でしょう。でも一番多く書かれている人物は、戴国の麒麟である泰麒です。第2部『風の海 迷宮の岸』は、生来の麒麟である自覚を持てずにいた10歳の少年・泰麒が、ついに天啓を得て驍宗を国王として認めるまでの物語。しかし第6部『黄昏の岸 暁の天』の冒頭では、将軍・阿選の大逆にあって驍宗も泰麒も行方不明となってしまいます。景王・陽子に助けを求めた忠将・李斎によって、呼び戻された泰麒が祖国のために立ち上がるところで本編は終わってしました。ちなみに記憶を失って現代日本である蓬莱に流されていた泰麒が、謎めいた暮らしをおくっていた時の物語が番外編の『魔性の子』です。

 

そして第9部にあたる本書で、ついに泰麒や李斎たちが戴国の人々とともに国家救済に乗り出します。第6部が出版された2001年以降は別の国のエピソードを紹介する短編が2冊出ていただけなので、続編はもう書かれないのではないかと思っていました。読み始める前に読書ノートにつけて記録とwikipediaを読み返し、記憶を新たにする必要があったほど。

 

さて待望の本書です。物語は、戴国に帰還した泰麒と李斎が、北方の寒村でかつて李斎の部下であった項梁と、阿選の登極に疑義を唱えて誅伐を受けて壊滅した道士の生き残りである去思と出会うところから始まります。王の生死を反映する白雉は落ちていないことから驍宗の生存を確信した4人は、行方不明となっている王の探索に乗り出します。そもそもなぜ驍宗はやすやすと阿選の陰謀に陥ってしまったのか。生きているならなぜ6年もの間、姿を現さないのか。驍宗は阿選に囚われているのでしょうか。それとも消息を絶った北部の廃坑近辺で生き延びているのでしょうか。

 

次第に同志も集まってきますが、叛徒の汚名を着た身では行動の自由もままなりません。泰麒は驍宗の捜索を李斎らに委ね、項梁とともに賊王・阿選が統べる首都・鴻基へと向かいます。反乱にあった際に角を切り落とされていた泰麒は麒麟としての力を失っているはずなのですが、阿選を新王と呼ぶのは敵の懐に入るための口実なのでしょうか。それとも何らかの天啓を得たとでもいうのでしょうか。物語はまだ始まったばかりです。

 

2021/5