りぼんの読書ノート

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京都、パリ(鹿島茂/井上章一)

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フランス文学界の重鎮鹿島茂氏と、京都に生まれ育って『京都ぎらい』の著作もある井上章一氏が、共通点の多いと思われる2つの都市について対談した作品です。鹿島氏はあとがきで「考えるとは比較することだ」と言い切っり、「一見すると似ているように見えるけれど、実際は全く異なっているようなものを選んでこそ、比較のしがいがある」と語っています。その意味でも、京都とパリの比較は絶妙なのでしょう。

 

似ている点は、多くの文化遺産が遺された歴史ある古都であること、さらには京都人とパリジャンという癖のある人たちが住んでいること。しかし本書を読むと、両者は正反対の存在のように思えてきます。それは京都が直系家族の町であるのに対して、パリが平等主義的核家族の町であることに由来するのかもしれません。パリで権威ある直系家族は、革命で毀損した国王の一族だけだというのです。一般市民が由緒を誇るというケースは世界的にも珍しいそうで、イタリアやドイツや南フランスの辺境にわずかに残る程度だとのこと。

 

そういう意味では、京都と似ているのはフィレンツェではないかと語られます。ローマに対してコンプレックスを抱きながら見下している様子も、京都と東京の関係に似ているというのですが、いかがでしょう、フランス国内では、リヨンがパリに対して複雑な感情を抱いているそうです。

 

計画的に作られたとの共通点はあるものの、ナポレオン3世時代のオスマン区画整理を行って建造物の企画を統一したパリと比較すると、京都の建物はバラバラですね。パリの道路は碁盤の目ではなく、曲線と放射線状の道路が多いのも異なる点でしょう。井上氏は、パリの都市計画と似ているのはむしろ大阪ではないかと述べています。確かに中之島シテ島は似ているようにも思えます。ただし街の力が衰えてから観光に注力するようになった点は共通しているとのことで、パリはロンドンに、京都は大阪や東京に追い越されてから観光が盛んになったとのこと。

 

他にも「京美人とパリジェンヌ」や「京料理とフランス料理」など、興味深い比較が多面的に語られている、興味深い対談でした。もうひとつ印象に残ったのは京都人のプライドの高さですね。京都市以外は京都ではないという説はよく聞きますが、人によっては嵯峨や伏見はもちろん、左京区右京区も、さらには丸太町通五条通の外は京都ではないそうです。これだと洛東や洛西の世界遺産に登録された寺社はもちろん、御所ですら京都ではなくなってしまうのですが・・。

 

2021/5