りぼんの読書ノート

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サラの鍵(タチアナ・ド・ロネ)

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7月16日は、フランスにとっての暗い記念日です。1942年のこの日、ナチス支配下にあったとはいえフランス警察の手でユダヤ人の一斉検挙が行なわれ、4千以上の子どもたちを含む多数のユダヤ人が、ヴェロドローム・ディヴェールという室内競技場に押し込められた後、アウシュヴィッツに送られたのです。ほとんどのフランス人が見て見ぬふりをしておいて、後には「ナチスのせい」としたり「知らなかった」と自己防衛をはかったということが、この事件の暗さを増しています。

本書の主人公ジュリアは、アメリカに生まれ、フランス人の夫と結婚してパリに住む45歳のジャーナリスト。雑誌に「ヴェルディヴ60周年」の記事を書くことになり、過去の事件を調べていたジュリアは、夫の祖母が住んでいたアパルトマンがその直後に入手されたことを知って興味を覚えます。

彼女が知ったのは、60年前にその部屋から連行された10歳の少女サラの記録でした。その日、幼い弟を守ろうとしたサラは、弟を秘密の納戸に隠して外から鍵をかけます。すぐに戻ってきてそこから出してあげられると無邪気に思って・・。サラの死亡記録がないことを知ったジュリアは、サラの人生を尋ね求めます。自分が手を下したわけではない過去の悲惨な出来事に対して、人はどう向き合って、どんな態度をとることができるのでしょう。しかも、直接に関係がある人たちが、目をそむけようとしている出来事に・・。

「正解」はないのでしょうが、サラの悲しみを自分の悲しみとして捉えることによって、ジュリアは自分自身と向き合っていきます。ひとり娘ゾーイへの愛情。意外な妊娠と、子どもを望まない夫とのすれ違い。「サラと会って何をしたいのか」と尋ねる老人に彼女は答えます。「わたしが謝りたいのです」と。

他所の国の出来事ではありません。日本でも、似たような悲劇がたくさん起きています。そういう過去にどう向き合うか、それは様々であってよいのでしょうが、少なくとも知らないままにしておいてよいことではないと思うのです。

2010/8